協調介入後のドル円、底堅さの背景
今回は、「協調介入はまだあるか?」について解説します(スライド1)。

先週7日、米国の7月雇用統計が予想を下回り、一時156円台まで下落したドル円でしたが、今週は堅調に推移し、159円台後半まで持ち直しました。この一因に、協調介入後の安値が159.23と5月の安値155.04の下抜けに失敗したことが挙げられます。市場では155円が強いサポートと改めて認識された可能性があります(スライド3)。

今週の主要通貨の対ドル変化率をみると、原油価格の高止まりを受け、資源国通貨が堅調に推移しました。石油関連製品まで含めると米国も原油や石油の純輸出国であり、ドルも底堅く推移しました。一方、円は協調介入の反動から、軟調に推移しました(スライド4)。

米国がドル安を志向しない本音と協調介入の限界
先週の動画では、FIMAレポを活用しても、介入に関する金額面での制約は残ることを指摘しました。また、ユーロ円で介入したことから、ドルを売りたくない米国の本音も透けて見えます。アメリカは経常赤字国ですから後述する通り、ドル安を志向できる立場にありません。
また、ECBに対しては事後的に報告がなされ、しかも介入ではなく、外貨準備の再配分との説明がなされたと報じられています。従って、欧州を含むG7で円安への懸念が共有されていたわけでもないようです。米国も今回の介入に対し、国際的な理解が得られにくいと認識している可能性が高く、今後の追加的な協調介入の可能性は低いと考えられます。今週のドル円の底堅さは市場でもこのような見方が広がった結果かも知れません(スライド5)。

因みに、経常収支とは公的部門の資金過不足と民間部門の資金過不足の合計です。米国の場合、公的部門の資金不足を民間部門の資金余剰では賄い切れず、その穴埋めを海外勢による米国債への投資に依存しています。このため、経常赤字の安定的なファイナンスにはドルの安定が必須なのです。これが、歴代財務長官が「強いドルが国益である」と繰り返してきた背景と考えられます。
1月23日のレートチェック後、ドル指数は第二次トランプ政権発足後の最安値を記録しましたが、その際、日米協調介入の可能性を問われたベッセント財務長官は「絶対にない」と答えています。尚、1998年6月の日米協調円買い介入、2000年9月のG7協調介入ともに実施されたのは1営業日限りです。強いメッセージ出しが目的であって、力で相場の流れや水準を変えようとまではしないと考えられます(スライド6)。

利上げ観測高まるも円高が進まない日本の実情
さて、今週も日本の長期金利が上昇しました。昨年から長期金利の上昇と円安が並走しましたが、今週は日本のタームプレミアムおよび期待インフレ率ともにそれほど上がっておらず、いわゆる「悪い金利」でもなかったようです。今週公表された7月の日銀金融政策決定会合に関する「主な意見」では、9月利上げへの言及が見られました。
またブルームバーグの報道によれば政府が「日米協調介入の効果を維持する観点から、早期の利上げを支持している」とのことです。これを受けて9月の利上げの織り込みが8割にまで上昇し、年内の利上げ回数も1.5回まで織り込まれています。本来であれば利上げ観測の台頭によって円高が進んでもおかしくありませんでしたが、実際には冒頭で示した通り、今週のドル円は底堅く推移したのです(スライド7)。

この背景に、次の利上げ後も日本の短期の実質金利(=政策金利-インフレ率)が依然としてマイナス圏にとどまることが挙げられます。6月分の消費者物価指数は前年比で1.7%(総合)でしたが、7月については2%付近まで上昇するとみられています。利上げやその観測の高まりでも、円高が進みにくい背景と考えられます(スライド8)。

米国のインフレ圧力は緩和傾向か?FRBの判断と市場の懸念
今週は米消費者物価指数、生産者物価指数が発表され、どちらもインフレ圧力の緩和を示唆しました。ウォーシュ議長が重視しているとされる、個人消費者支出物価指数(PCE)の内、ダラス地区連銀が公表している刈込平均も2%付近まで低下してきました。この刈込平均については他のFOMC高官も重視する姿勢をみせていますが、その点に対する批判もあります。
というのも、2020年から2021年にかけて急速にインフレが進んだ際、この刈込平均の伸びが緩やかだったことから、当時のFRBがインフレを一時的なものと評価し、静観を続けた結果、その後、2022年以降の急速な利上げへ追い込まれたからです。そもそも、FRBが対外的に参照している基準として公表している個人消費出物価指数は高止まりが続いており、年内に利上げがあっても不思議ではありません(スライド9)。

民間公表の週次の小売売上高によれば、7月は前月から伸びが縮小しています。本日公表される商務省の小売売上高もやや低調な結果となる可能性があります。ただ、8月に入ってからも週次の小売売上高は前年比で8%台を維持しており、依然として個人消費は底堅さを保っています(スライド10)。

また、労働市場についても、先週発表された7月の雇用統計は予想を大きく下回りましたが、21種類の労働市場の関連データから労働市場の状態を示す労働市場情勢指数をみると、モメンタムが4カ月ぶりの水準まで上昇してきました。このモメンタムがプラス圏にあるとき、労働市場は改善方向にあることを示唆しています。今回については製造業ISM景気指数の中の雇用指数の改善が大きく寄与したとされていますが、全体としてみれば労働市場も改善傾向にあると考えられます(スライド11)。

日米金融政策の綱引きとドル円の今後の展開
以上を踏まえると、まず米国については、雇用統計や消費者物価指数に照らせば、9月の利上げはないでしょう。10月のFOMCも中間選挙の直前であり、よほどインフレ圧力が高まっていない限り、ここでも利上げの可能性はほぼないでしょう。一方、インフレ率が目標2%を上回り続けるとみられ、個人消費も株式相場がよほど値崩れを起こさない限り、堅さを維持するでしょう。
また、労働市場の緩やかな改善も続くと考えられ、現時点では12月の利上げを予想します。一方、日銀も年内の追加利上げが確実な情勢ですが、為替相場次第で前倒しされそうです。さすがに9月利上げは前回から3カ月しか経過しておらず、慎重に判断するとみられます。目先すぐにも165円を上抜けるなど、よほどの円安となっていない限り、可能性は低いでしょう。但し、12月まで先延ばしをした場合、米FRBの利上げと重なれば、利上げによる円高圧力はかなり減殺されます。このことから、10月利上げの可能性が高まりつつあるのではないでしょうか(スライド12)。

来週のポイントです。米国の利上げ観測の後退と日本の9月利上げ観測の台頭により、本来であればドル円は下落するはずでした。しかし、実際にはそれよりも協調介入の反動が勝り、ドル円は堅調に推移しました。原油価格も高止まりしており、米長期金利も上昇しています。これらを支えに、ドル円は底堅く推移するとみられ、160円台回復の可能性も十分でしょう。
ただし、さらなる促進にはドル高と円安の両方が必要と思われますが米国の利上げ観測が後退している中、上値は重くなりそうです。その上、仮に財務省の要請に応じてFRBがFIMAレポの拡大要請を受け入れたことが報じられれば、改めて協調介入が連想されるかも知れません。日米の協調を示す報道には要注意です。来週は158円から161円で推移すると予想しています。
来週は日本の7月消費者物価指数に注目です。現在は2%程度までインフレが加速したと予想されています。これは9月の利上げ観測を強めるものであり、円高材料となるはずですが、実際には実質金利のマイナスが続くこと、また、日銀のビハインド・ザ・カーブが改めて意識される可能性もあること、などから円安に波及する可能性があり、注目です(スライド13)。
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