ドル円、155円が強いサポートに? 市場動向と介入警戒感

まず主要通貨の対ドル変化率です。今週は米国の長期金利上昇が一服し、ドルがやや買い戻された結果、ドルは豪ドルに次ぐ二番手に浮上しました。円も四番手と中盤やや上に位置した結果、ドルと円が拮抗し、ドル円は小動きでした(スライド4)。(後記:ウォーシュ議長講演、雇用統計の年次予備改定を受け、ドルが全面高となりました。)ドル円相場をみると、協調介入後の安値が155円23銭とゴールデンウィーク中の安値155円04銭を下抜けすることができませんでした。このため、市場では155円が強いサポートとして意識されているとみられ、ドル円も下値を切り上げつつあります。一方、介入警戒感も残っており、160円の手前では上値の重さも目立ちました(スライド5)。

協調介入の再来は低調か? 米財務省の思惑と日本への影響

その協調介入ですが、8月3日の財務大臣の談話では、「さらなる協調介入も躊躇しない」とされました。ただ、実際には以下四つの理由から、協調介入が繰り返される可能性は非常に低いとみています。まず、今回の協調介入に関してG7の共同声明が出ていません。1998年6月の日米協調介入の場合、介入に参加したのは米国だけでしたが、その2カ月前のG7共同声明で円安に対する懸念が共有されていました。2000年9月のG7協調ユーロ買い介入の際も翌日にやはりG7声明が出されています。今回の協調介入の理由とされた、円安やそのアジア通貨安への懸念は共有されていないと考えられ、その場合、協調介入が繰り返される可能性は低いと考えられます。

次に、米国はドル安を望んでいません。米国は経常赤字国であり、海外勢による米国債投資に依存している側面があります。安定的な米国債の消化にドルの安定は重要です。先日の協調介入で米国はユーロを売りましたが、さすがに次回はドルを売らざるを得ないでしょう。3つ目は、協調介入は通常、一日限りという点です。先の2つの協調介入が行われたのはどちらも一営業日だけです。G7にとって、協調介入はあくまでもメッセージを発する手段であり、力で相場の流れを変えたり、水準を是正することはしないと考えられます。

最後は、米財務省が協調介入によって所期の目的を概ね達成したと考えられることです。米財務省が最も嫌がったのは日本当局による米国債の売却でしょう。但し、FIMAレポの活用を許容することにより、日本の当局による米国債の売却を先延ばしすることができる見通しです。また、ベッセント財務長官はこれまで直接的または間接的に日本に対して利上げを求めてきましたが、協調介入後、日本政府も「協調介入の効果を持続するために利上げの前倒しを支持する」との観測報道が出るに至っています。また、日銀の9月利上げの織り込みも8割を超えており、米財務省として更なる協調介入のメリットは乏しいと考えられます(スライド6)。

日銀9月利上げ濃厚の舞台裏:投機筋の動きと副総裁のシグナル

投機筋のポジションをみると、年金基金や保険会社、投資信託などが含まれるアセットマネジャーズはかなり円ショートを縮小したところで様子見です。一方、ヘッジファンドなどが含まれるレバレッジドファンド勢は一旦円ショートを縮小したものの、その後再び円ショートに振っています(後記:8/25時点でさらに円ショート拡大)。このことから協調介入後の円の買い戻しはすでに一巡したと考えられます(スライド7)。

こうした中、27日に氷見野副総裁が講演しました。9月の利上げに向けたシグナルは「中程度」のものが発せられたと言えるでしょう。同副総裁は2025年1月14日の講演にて、翌週の金融政策決定会合に直接言及し、そこで利上げを行うかどうか議論すると明言しました。これが市場には事実上の利上げの告知と映りました。今回は「毎回の会合でしっかり議論していく」との言及がありましたが、「来月の会合」といった具体的な会合への言及はありませんでした。もっとも、「物価の上振れ」について、「これまで以上に」と強調されており、利上げが近いとのシグナルは発せられたと考えられます。市場では総じてみて、「中程度」の利上げシグナルであったと受け止められています(スライド8)。

OIS市場では、日本の9月利上げは84%も織り込まれています。年内についても1.6回の利上げ、つまり9月利上げ後の追加利上げが約6割織り込まれています。ここまで織り込みが進み、その火消しも特になかったことを踏まえると、日銀の9月利上げが濃厚です。一方、米国についても一時は1回を下回っていましたが足もとでは年内の利上げを完全に織り込んでいます(スライド9)。

氷見野副総裁の講演資料に掲載された日本の物価動向をみると、生鮮食品を除いた消費者物価指数は直近で前年比+1.8%と目標2%を下回っていますが、緑色で示されている特殊要因がかなり物価を押し下げています(※特殊要員は教育無償化政策やガソリン・電気・ガス等の負担緩和策ほか)。一方、その特殊要因は徐々に剥落しつつあり、目先については再び2%を超えていく可能性が高く、日銀も物価の上振れリスクへの警戒を強めているはずです(スライド10)。

米国の年内利上げは高確率? 底堅い経済指標と市場の期待

米国では、米財務省が一般勘定(TGA)を活用し、米国債を買い戻すとの観測報道が出され、10年物タームプレミアムが縮小しました。これを受けてドル指数もいくらか持ち直しています。但し、TGA残高は一兆ドルをやや下回る一方、米国債は市場で取引されているものだけで約30兆ドルにのぼります。この報道で米国の財政に対する懸念がどの程度、和らぐのかは不透明です(スライド11)。

一方、今週発表された個人消費支出物価指数(PCE)が予想を上回ったことから、先にみた通り、利上げの織り込みが進展しました。また、カンザスシティー地区連銀のシュミット総裁やクリーブランド地区連銀のハマック総裁らも利上げを支持する考えを表明しています。ウォーシュ議長はダラス地区連銀公表の刈谷平均値を重視しているとされ、その伸びが2%近くまで低下してきた結果、利上げが先送りされるとの見方もあります。ただ、7月のFOMC議事要旨では据え置きに反対した3人以外にも複数の参加者が利上げの必要性に言及したことが明らかになっています。やはり今後の米国の金融政策を展望する際、PCEのヘッドラインやコア指数が重要であると考えられます(スライド12)。

民間データで週次の小売売上高をみると、直近では前年比+9%と非常に高い伸びを示しました。商務省の7月小売売上高が予想を下回ったことから、俄かに米国の個人消費に対する懸念が台頭していますが、このデータを見る限り、個人消費について過度に不安視する必要は低いと言えそうです(スライド13)。

また、今週はカンファレンスボードより景気先行指数が発表されました。予想をやや下回ったとの報道もありましたが、値そのものは、5年ぶりにプラス圏まで浮上してきました。消費者の期待指数のマイナス寄与が軽減したことに加え、住宅建設許可件数の増加や新規失業保険申請件数の減少が大きくプラスに作用したとされています。総じて米経済は底堅さを保っており、年内利上げの可能性は高いと考えられます(スライド14)。

来週のドル円相場を占う:ジャクソンホールと米経済指標、G20

来週のポイントです。

本日、ジャクソンホールでウォーシュ議長が講演します。テーマは金融イノベーションであり、おそらく市場は無風で通過すると考えられます(後記:実際にはインフレ抑制が最優先課題であるとのスタンスが示され、講演後に9月利上げの織り込みが前日の36%から58%まで、年内利上げの織り込みも1.1回から1.5回まで進展)。ドル円は底堅く推移していますが、160円台回復にはドル高が必要と考えられます。その点、来週は米国の重要な経済指標が目白押しです。これらが総じて予想を上回り、利上げの織り込みが強まると、ドル円が上昇すると考えられます。但し、ドル高によって他通貨は弱含むため、クロス円は停滞するでしょう。

一方、予想を下回り、利上げの織り込みが後退すれば、ドル円は下落するものの、他通貨は相対的に浮上するため、クロス円は堅調に推移すると考えられます。また、円も依然として弱いとみられ、実際にドル円が下落するかどうかは、米経済指標が予想を下回った程度によるでしょう。尚、今週は雇用統計に関して年次の予備改定値が公表されます。昨年はここで91万人もの下方修正がなされました。対象は2025年4月から2026年3月までと過去の数字ですが、大きな下方修正があれば4月以降の数字に対する信用性も低下するため、要注意です(後記:実際には下方修正幅が約7万9千人と小規模だったことから、米労働市場に対するポジティブな材料とみなされ、ドル高を誘発)。尚、来週はG20が開催されます。仮に、協調介入を追認する声明が出されると協調介入が繰り返される可能性が意識され、ドル円の上値はかなり重くなると考えられます。但し、これはあくまでもリスクシナリオです。

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