「映えないジジイ」呼ばわり

壮一郎が隣の部屋のドアの前に立つと、向こう側のバカ騒ぎの声が漏れ聞こえていた。

「ワハハハハ……。それ超ヤバいね!!」

壮一郎は嫌悪感に顔をしかめかけたが、冷静に対応しなければと思い、呼吸を整えてから、ドアの横にあるチャイムを鳴らした。

ピンポン……。

部屋の中でも音が聞こえる。途端に中のバカ騒ぎが収まった。

「はい? どなたですか?」インターホンから住人の声が聞こえる。

「隣の住人なんですが……」

壮一郎がおずおずと言うと、ドアが開いた。

「何の用ですか?」

ドアの隙間から、若い女性の顔がのぞく。フードのついたピンク色のパジャマを着ている。ただ、寝る前にしては、かなり濃いめに化粧をしていた。

壮一郎は一瞬ためらったが、思い切って用件を切り出した。

「あの、実は、隣までそちらの声が聞こえてまして……。もう遅い時間だし、もう少し静かにしてもらえないでしょうか」

「声? ああ、ちょっと、当分はやめられないです」

若い女性が不機嫌そうに言った。

「今、配信中なんで」

「配信?」

その言葉が、YouTubeかなにかでリアルタイムの動画を配信している、という意味だと壮一郎が気づくまで時間がかかった。

「配信か何か知りませんけど、もう遅い時間だし、やめてもらえませんかね?」

できるだけ丁寧な表現のつもりで、壮一郎がそう言った瞬間だった。

若い女性の表情が一変し、大きな声で怒鳴り散らした。

「ウザ。できないっつってんだろ! 映えないジジイが、カワイイあたしに文句言うんじゃねえよ!」

「な……」

一瞬、何を言われたのか理解に苦しむくらい、あまりにも理不尽で唐突な罵倒だった。ただ、悪意をぶつけられたことは瞬時に理解できた。強いショックを受け、壮一郎の手足がわなわなと震える。だが、あまりケンカ慣れしていない彼は咄嗟に言い返すことができない。

「わかったらさっさと帰って。警察呼ぶよ?」

壮一郎の目の前で、ドアが乱暴に閉じられた。

自室に戻ることも忘れ、壮一郎はしばし呆然と、タワマンの廊下に立ち尽くしていた。

●この女性の正体とは? またなぜ彼女は激怒したのでしょうか? 後編:【「隣のクソジジイに動画配信を邪魔されている」女性インフルエンサーに嘘をばらまかれた66歳元大学教授の苦難】にて詳細をお届けします。

 

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。