資産形成・資産運用にまつわる実践的かつ効果的な情報提供を行うMUFG資産形成研究所。同研究所のウェブサイトに掲載された論文・レポートを再編集してお届けする(掲載元の執筆日:4月27日)。

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後編では、前編で分析した人手不足の実状を踏まえ、人手不足経済の下でこそ効果を発揮する高圧経済政策や日本経済の課題への対応等について考察します。

高圧経済とは

(1)高圧経済の特徴

高圧経済(High-pressure Economy)の特徴については、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが提唱した「有効需要の原理(Principle of Effective Demand)」と共通する点があるとも指摘されますが、「前提」「目的」「メカニズム(作用の仕組み)」の面で明確に異なります。

有効需要の原理では、需要は本来不足しやすいと捉えられています。政府が創出する商品やサービスへの需要が、生産や所得の増加を通じて供給量に大きく影響し、最終的には国民所得や雇用など、経済活動全体の水準を左右すると考えられます。そのため、需要不足の経済環境では、極端な例として「穴を掘って埋める」だけの公共事業であっても需要を喚起する限り有効であり、需要の質を問わない点が特徴です。

これに対し、高圧経済は1970年代初頭にアメリカの経済学者アーサー・オークンが提唱した概念であり、マクロ経済政策が目指すべき理想的な経済状態として、「低インフレ・高失業」の“低圧経済”よりも「高インフレ・低失業」の状態を望ましいとする立場を取ります。

というのも、高インフレ・低失業の高圧経済では、低圧経済下で解雇や賃下げの対象となりやすい低スキル労働者の待遇改善に加え、労働需給の逼迫による賃金上昇や、省力化投資を通じた労働生産性の向上といった効果が期待されるためです。こうした所得分配や供給能力の改善は、需要超過の経済環境のもとでこそ実現可能であるとオークンは主張しました。

このオークンの主張は、FRB議長時代のジャネット・イエレンによる2016年の講演で受け継がれ、リーマンショック以降蔓延していた経済の長期停滞を克服するには高圧経済が必要不可欠だとして、改めて注目を集めました。

そして、オークンが提唱し、イエレンが再評価した高圧経済の考え方を政策として取り込もうとしているのが、2025年10月に発足した高市政権が掲げる「サナエノミクス」、すなわち責任ある積極財政です。

その柱となるのは、まずプライマリーバランス(基礎的財政収支)の単年度黒字化目標を撤廃し、戦略的かつ機動的な財政出動を可能にするという方針です。

さらに、日本成長戦略本部の下に「日本成長戦略会議」を新設し、危機管理投資や成長投資を通じて、日本経済の供給構造を抜本的に強化し、強い経済の実現を目指しています。

これらの取り組みは、まさに高圧経済が志向するアプローチと軌を一にする政策であるといえます。