5.考察と今後の展望

本分析の結果、日本において「債務対GDP比」が描く悲観的なシナリオは、他の指標を用いた場合には必ずしも再現されないことが明らかになったといえる。

日本の財政持続可能性に関する議論は、これまで「債務対GDP比」という単一の、そして理論的根拠が必ずしも盤石ではない指標に過度に依存してきた。しかし、Berk and van Binsbergen (2026) のアプローチを日本に適用すると、利払い負担や国の総資産価値との比較において、日本の債務状況は異なる側面を見せることがわかる。こうしたことからすれば、安易な財政危機論に陥る前に、マクロ経済とコーポレート・ファイナンスの知見を融合させた、より強固な理論的基盤に基づく指標の開発が急務であるといえよう。

そして、日本のデータにおける拡張性として、例えば株式時価総額だけでなく、不動産や民間資本を含めた、より包括的な「国の富」を分母とするといった富の定義の拡大や、資産側を考慮して、政府の負債だけでなく、対外純資産や政府保有資産を考慮した純債務ベースでの分析などを要素に加えることで、より精緻な日本モデルを構築できる可能性があるといえよう。

1 Jonathan B.Berk and Jules H.van Binsbergen「WHY CARE ABOUT DEBT-TO-GDP?」NBER WORKING PAPER SERIES (2026)