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要旨
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- Berk and van Binsbergen(2026) 1論文に基づき、従来の「債務対GDP比」に基づく基礎的財政収支に偏重した日本の財政議論に対し、多角的な視点から再評価を試みる。
- 日本の債務対GDP比は過去40年で約4倍に急増し、200%を超える世界的にも突出した水準にある。しかし、この指標を唯一の判断基準とする理論的根拠は不十分であり、多分に恣意的であると指摘されている。
- 論文の提言に従い、「債務対GDP比」に加え、利払い費用の負担を示す「利払い対GDP比」、および国の富の代理変数とした「債務対株式時価総額比」の3軸で評価を行うと、日本は指標によって全く異なる様相を呈していることが明らかになる。
- 具体的には、債務残高は高水準にあるものの、相対的な低金利により、GDPに対する利払い負担は他のG7諸国以上に抑制されている。また、成長期待を反映する株式時価総額と比較した債務比率は、債務対GDP比のような高水準にはなく、ドイツに近いか、それを下回る水準で推移している。従って、債務対GDP比が200%超という高水準でも日本がデフォルトに陥っていない事実は、他の2指標の方が債務負担能力をより正確に反映している可能性を示唆している。
- 日本の財政議論は、理論的基盤が必ずしも盤石ではない債務対GDP比に基づく基礎的財政収支に過度に依存してきた。しかし、利払い負担や資産価値を考慮すれば、日本の債務状況は異なる側面を見せる。今後は、不動産や民間資本を含めた「包括的な国の富」の定義や、対外純資産を考慮した「純債務ベース」での分析など、より精緻な日本モデルの構築が急務。
(注)本稿の執筆に当たっては、早稲田大学政治経済学術院教授の若田部昌澄氏から有益なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。残された誤りは全て筆者らに帰する。