マッチング拠出について

従業員の資産形成に対する企業の支援策としてDCにおけるマッチング拠出(事業主掛金に加えて加入者本人が掛金を拠出)の導入があります。マッチング拠出可能額には限度があり、事業主掛金額と同額以下かつ事業主掛金と合算して法定の拠出限度額(DBがない場合55,000円、DBがある場合55,000円-他制度掛金相当額)以下という仕組みでした。実態は図表9のとおり、マッチング拠出を導入している制度の割合(マッチング拠出採用率)は2014年の20%程度から50%程度まで上昇したものの、それ以降は伸び悩んでいる状況です。また採用制度の中で実際拠出を行っている者の割合(マッチング拠出利用率)も2014年の20%弱から増加したものの、30%強で頭打ちになっています。

〔図表9〕マッチング拠出の採用・利用状況の推移

 
出所:運管協資料より筆者作成
 

伸び悩みの原因としては、事業主として運営上の事務負荷があり、事業主が実施しなくともiDeCoで代替可能なこと、NISAでの積み立てなど従業員ニーズの多様化、など複数の要因があると考えられます。もう一つの要因として、マッチング拠出は事業主掛金額と同額以下という制約により、使い勝手が悪い問題がありました。この問題に対しては、2026年4月より改正され、事業主掛金と同額以下という制限が撤廃されます。さらに同年12月にはDC拠出限度額の引き上げ(55,000円→62,000円)が続きます。これまで事業主掛金が低く思うようにマッチングできなかった問題がかなり解消すると考えらえます。ただし、法令等の改正があってもDC規約をそれに合わせ変更する必要があります。これらの改正をきっかけにして規約変更を推進することが重要です。加えて、マッチング拠出の税制メリットを含めた資産形成におけるDCの有用性をきちんと伝える教育機会の提供が必要です。このような施策が進めば、この停滞気味のマッチング拠出の利用率も向上するのではないかと考えます。

老齢給付金の状況について

制度の成熟化とともに老齢給付金の給付額も年々増加しています(図表10)。一時金給付は2014年の1,916億円から11年間で5,074億円まで増加しています。年金給付においても90億円から297億円と大幅に増加しています。課題としては、年金給付額は一時金給付額の6.5%に過ぎないということです。年金選択率が低い傾向はDBでも同じですが、これほどの差はありません。

この一時金に偏重していることを示す新しい情報として、老齢給付金の新規裁定の状況が年金、一時金、併給の区別で件数がわかるようになりました。年間9.8万件の新規裁定で一時金が9.3万件、ここから併給者を除いても9万件以上が一時金を取得しています。年金選択者率は8.2%と件数でみても一時金が多いことがわかります(図表11)

〔図表10〕老齢給付金の推移

 
出所:運管協資料より筆者作成
 

なお、新しい情報として年金の受給年数別の選択状況も公表されました。受給年数5年が46.0%、6-10年が30.3%、11-20年が21.2%、終身が2.5%であり、短い期間の方が選好されています。

年金選択率の低いDC特有の理由の一つとして、発展途上がゆえに年金払いとすると少額となって、わざわざ年金払いとするほどの金額ではないケースがあること、加えて年金払いの都度、手数料がかかることがあげられます。この点は受給年数の5年が一番多く選択されている理由にもなるかと考えます。

〔図表11〕老齢給付金新規裁定者数

 
出所:運管協資料より筆者作成
 

またDBと共通して一時金が多い理由については、定年退職などの時期にローンの一括返済などの一時金の需要があることや、所得税制において一時金取得の方が有利になるケースが多いことがあげられます。老後生活費にあてるならば年金払いが相応しいと考えられますが、以上のような理由で一時金取得が多くなっています。

以上、運管協資料およびDC意識調査を読み解いてきました。資産構成割合の変化をみると投資に資金が回るようになってきたことが確認できました。一方で給付の方は老齢期の所得保障という機能発揮には制度・教育面の課題がまだまだあることが確認できました。今後、拠出限度額やマッチング拠出の改正の効果に期待が持てますが、老後の所得保障の観点で年金選択へのハードルは高いままとなりそうです。この課題については、別途ソリューションを考える必要があります。別稿「確定拠出年金制度における年金受給に関する考察」にて、論点を整理していますので、ご関心ある方はこちらもご覧いただけると幸いです。

なお、本稿における意見にかかわる部分および有り得るべき誤りは、筆者個人に帰属するものであり、所属する組織のものではないことを申し添えます。

参考資料
確定拠出年金統計資料(2025年3月末) 運営管理機関連絡協議会
企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2025年版(第21回)報告書<サマリー>~いま、企業型DCに求められている事項を中心に~ NPO法人DC・iDeCo協会
統計資料からみる企業型DCの現状~急増する内外株投資信託 拙著
確定拠出年金制度における年金受給に関する考察 拙著

(執筆:MUFG資産形成研究所 所長 日下部朋久)

ご留意事項

・本稿は、MUFG資産形成研究所が作成したものであり、著作権は同研究所に帰属します。
・本稿は資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
・本稿で提供している情報の内容に関しては万全を期していますが、その正確性・完全性についてMUFG資産形成研究所が責任を負うものではありません。
・本稿で提供している情報は作成時点のものであり、予告なく変更または削除することがあります。
・本稿で提供している情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、MUFG資産形成研究所は一切責任を負いません。