資産形成・資産運用にまつわる実践的かつ効果的な情報提供を行うMUFG資産形成研究所。同研究所のウェブサイトに掲載された論文・レポートを再編集してお届けする(掲載元の執筆日:9月25日)。

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はじめに

従業員エンゲージメントは伊藤レポート 2.0*1で人材戦略に求められる要素の 1 つとして掲げられ、人的資本可視化指針*2でも企業価値向上の起点となる人的投資の 1 つとされるなど、人的資本経営を進めるうえでの重要な要素に位置付けられている。また、人的資本経営の成果をはかる代表的 KPI として活用されることも多く、有価証券報告書や統合報告書などで開示する企業も少なくない。

企業の退職給付制度や福利厚生制度、またはライフプランや資産形成に関する研修(以下、「金融経済教育」という)などの従業員への資産形成支援は、従業員の経済的不安を取り除き仕事に集中できる環境をつくることへの支援であり、従業員にとってはその企業に勤めているからこそ享受できる経済的支援である。こうした従業員への資産形成支援は、従業員エンゲージメントや生産性の向上を通して人的資本経営を支え、企業価値向上に寄与すると考えられている。本レポートでは、従業員エンゲージメントレベルごとにその特性を明らかにし、ファイナンシャル・ウェルビーイング*3(以下、「FWB」という)、投資行動や金融経済知識の違いに着目しながら、企業の資産形成支援が従業員エンゲージメント向上に与える影響について考察する。なお、本レポートでは複数の項目間の関係性について分析をしている。これらの関係性の因果関係は明らかではないが、筆者によりその関係性について推論を行っている。

本レポートは当研究所 1 万人アンケート*4における企業勤務者 8,500 人を対象に、従業員エンゲージメントレベル(現勤務先への入社推奨度)を「低い」「やや低い」「やや高い」「高い」の 4 グループ*5に分けて検証を行った(図表 1)。なお、本レポートの図表はすべて 1 万人アンケートを基に当研究所が作成したものであり、図表中の「(EN)」は従業員エンゲージメントレベルを表している。

〔図表 1〕企業勤務者の従業員エンゲージメントレベル

 

*1  「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート 2.0~」(2022 年経済産業省)。「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」(2020 年経済産業省)にも同様の記述がある。
*2  2022 年 8 月非財務情報可視化研究会(内閣官房)。
*3  当研究所では FWB を「現在および将来、お金に追われず、(お金に)人生の選択肢を縛られず、(お金に)安心感がある状態」と定義している。
*4  調査概要;リサーチ会社の消費者モニターへのWEBアンケート。有効回答者数1万人(企業勤務者8,500人、公務員500人、専業主婦・主夫500人、自営業・自由業・フリーランス500人)。なお、企業勤務者8,500人の年代および男女の構成比は、総務省「就業構造基本調査」(令和4年)における正規の職員・従業員300人以上企業と同分布となるよう割り付け。
調査期間;2025 年 1 月 24 日(金)~2 月 3 日(月)。
*5  現勤務先への入社推奨度 11 段階の中から推奨度合いを 4 グループに分類した(0~2;低い、3~5;やや低い、6~8;やや高い、9~10;高い)。一般的に 3 グループ(0~6;批判者/7~8;中立者/9~10;推奨者)に分類することが多いが、この場合 0~6(批判者)の割合が大きくなり、各グループの傾向が明確化されづらくなることから今回は 4 グループでの検証を実施。