従業員エンゲージメントとファイナンシャル・ウェルビーイング

次に従業員エンゲージメントレベルと FWB ステージ*7の関係をみる。

(1)従業員エンゲージメントレベルと FWB ステージの関係

従業員エンゲ―ジメントレベルが高いほど FWB ステージも「高い」「やや高い」の割合が多くなっており、両者には正の相関関係をみることができる(図表 8)。従業員エンゲージメントが高くなるにつれて、個人年収や金融資産額など経済的状況がより良くなる関係性があること(図表 5、図表 6)も影響していると思われる。

〔図表 8〕従業員エンゲージメントレベルと FWB ステージの関係

 

(2)従業員エンゲージメントレベルと分野別 FWB ステージの関係

当研究所では家計・資産形成・安心感の 3 領域についてそれぞれ現在時点、および将来に向けての 2つの次元で捉えた 6 つの分野で FWB(全体)を構成している(図表9)。そこで、分野別に FWB ステージを算出・分類*8し、従業員エンゲージメントレベルとの関係をみる(図表 10)。

〔図表 9〕FWB を構成する 3 領域 6 分野

 

*7  1 万人アンケートを基に当研究所独自の方法によりスコア化した結果(FWB スコア)を低い(0 点~25 点以下)、やや低い(25 点超~50 点以下)、やや高い(50 点超~75 点以下)、高い(75 点超~100 点)の 4 グループに分類。
*8  分野別 FWB スコアを低い(0~1 未満)、やや低い(1 以上~3 未満)、やや高い(3 以上~5 未満)、高い(5 以上~6 以下)の 4 グループに分類。分野別 FWB スコアは 6 要素それぞれの状態を問うアンケート(各 2~3 問)結果から 6 点満点として算出したもの。

図表 10 は従業員エンゲージメントレベルごとに分野別 FWB が高い人の割合を示している*9。分野別FWB と従業員エンゲージメントレベルの関係をみると、3 つの特徴を挙げることができる。

1 つめは「家計管理」「家計の備え」の家計領域は、従業員エンゲージメントレベルの高低で差はあるものの、すべての従業員エンゲージメントレベルで 6 割以上が FWB ステージの高い状態にある。従業員エンゲージメントレベルが低い階層の更なる向上余地はあるものの、家計については概ね従業員の FWB は充足していると考えられる。

2 つめは「現在の安心感」「将来の安心感」の安心感領域では、従業員エンゲージメントレベルが高い階層の FWB ステージが、他の分野別 FWB とくらべて伸び悩んでいることである。「現在の安心感」「将来の安心感」は、現在・将来における経済的な余裕やお金の心配をどう感じているかなどの視点で算出したスコアを基に FWB ステージを分類している。このため、特に、将来の経済的状況については、従業員エンゲージメントレベルが高い階層であっても、心配ないと回答しづらい人が一定数いたものと思われる。

3 つめは、「資産達成度」では、従業員エンゲージメントレベルが低い階層の FWB ステージが、他の分野別 FWB とくらべて 10~20 ポイント程度低い点である。特に従業員エンゲージメントレベルが「低い」階層では、「資産達成度」の FWB ステージが高い割合は 47%と、6 分野の中で唯一 50%を割り込んでいる。

資産形成領域(「生活設計」「資産達成度」)の FWB ステージは、将来想定するライフイベント費用や退職金金額等の把握状況と、ライフイベントや老後生活に必要な経済的準備状況を回答者がどう捉えているかという視点で算出したスコアを基に分類しており、安心感領域を具体化した領域と位置付けられる。そのため、従業員エンゲージメントレベルが高い階層でも低い階層でも、資産形成領域のFWB ステージ向上が FWB ステージ(全体)を引上げる起点の 1 つになると考えられる*10

〔図表 10〕従業員エンゲージメントレベルと分野別 FWB ステージの関係

 

9  「高い」「やや高い」「やや低い」「低い」のうち、「高い」「やや高い」の合計。
10  家計領域の FWB ステージの高低も安心領域、および FWB(全体)の FWB ステージに影響するが、家計領域における従業員の FWB ステージは概ね充足していると考えられることから、本レポートでは資産形成領域と安心感領域に着目する。

では、資産形成領域や安心感領域の FWB ステージが低い要因は何か。経済的準備の実践という「行動」ができていないのか、もしくは、自身の経済状況に応じた準備は実践しているものの、資産形成に関する「知識」がないために不安感が増大しているのであろうか。