まとめ

従業員エンゲージメントレベルと FWB ステージ・金融リテラシー得点はそれぞれ正の相関関係にあり、従業員エンゲージメントレベルが高いと FWB ステージ・金融リテラシー得点も高い傾向にある。

一方、従業員エンゲージメントレベルと分野別 FWB の関係では、従業員エンゲージメントレベルが高い層は安心感領域で伸び悩み、従業員エンゲージメントレベルが低い層は資産形成領域が低い傾向がみられる。資産形成領域はライフイベントや老後生活の金額把握とそれに必要な経済的準備の状況をどう捉えているかというものであり、現在および将来の安心感を問う安心感領域を具体化したものであるため、従業員エンゲージメントレベルが低い階層でも高い階層でも、FWB ステージの向上には資産形成領域の強化が一法として考えられる。企業勤務者の多くは、すでに収入等経済状況に応じた資産形成行動をとっていることから、自身の資産形成行動が間違っていないか、十分な水準なのかという不安解消に向けた金融経済教育の実践が FWB ステージ向上に寄与すると考える。

そして、従業員エンゲージメントレベルとの関係を踏まえると、金融経済教育をライフプランや資産形成に関する一般的な投資教育と捉えるのではなく、退職給付制度・福利厚生制度など社内の資産形成支援制度の周知・利用促進を含むものとして考えることが重要である。勤務先の資産形成支援制度はその企業に勤めているからこそ利用できる制度であり、勤務先の資産形成支援制度を利用して得た経済的メリットや生活上の困りごと解決の実感、勤務先がライフイベントに伴走する支援制度を整備しているという安心感は、従業員エンゲージメント向上につながっていくものと考えられる。

ここにおける企業の金融経済教育は、従業員が自らのライフプランにとって勤務先の資産形成支援制度を、あるいは社外の資産形成制度も交えて、有効に活用するために現状と将来のありたい姿を把握し、その実現のために必要な資産形成を考え行動する力を養うものである。従業員が自律した個人として成長する機会を提供することも、企業が金融経済教育に取組む意義であると考える。

なお、本稿における意見にかかわる部分および有り得るべき誤りは、筆者個人に帰属するものであり、所属する組織のものではないことを申し添える。

(執筆:MUFG資産形成研究所 主任研究員 新楽浩子)

ご留意事項

・本稿は、MUFG資産形成研究所が作成したものであり、著作権は同研究所に帰属します。
・本稿は資産形成等に関する情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の取得・勧誘を目的としたものではありません。
・本稿で提供している情報の内容に関しては万全を期していますが、その正確性・完全性についてMUFG資産形成研究所が責任を負うものではありません。
・本稿で提供している情報は作成時点のものであり、予告なく変更または削除することがあります。
・本稿で提供している情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、MUFG資産形成研究所は一切責任を負いません。