資産形成・資産運用にまつわる実践的かつ効果的な情報提供を行うMUFG資産形成研究所。同研究所のウェブサイトに掲載された論文・レポートを再編集してお届けする(掲載元の執筆日:7月28日)。

***
 

当レポートは2025年実施の金融リテラシー調査(1万人アンケート)から、300人以上の企業に勤務するもの8,500人のデータをもとに、従業員のファインナンシャル・ウェルビーイングの実態を紹介します。基本的な特性は過去の調査と変化はありませんでしたが、あらためて金融リテラシーや保有金融資産との関係性を確認するとともに、今回は勤務先で採用されている退職給付制度がDB(確定給付企業年金)や退職一時金、企業型DC(確定拠出年金)の違いでファイナンシャル・ウェルビーイングに差が生ずるのかなども考察します。なお昨年度までの調査結果や考察については、文末に参照先※1を記載しましたので、ご覧いただけると幸いです。以下、ファイナンシャル・ウェルビーイングをFWBと略して表記する場合がありますがご了承願います。

ファイナンシャル・ウェルビーイングスコア

ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)とは、MUFG資産形成研究所の定義では「現在および将来、お金に追われず、(お金に)人生の選択肢を縛られず、(お金の)安心感がある状態」を指します。一言にすると経済的充足感と言えるのではないかと思います。従業員のFWBが向上すると、経済的な不安や不満から解放されることになり、仕事に対する集中力が増したり、エンゲージメントの向上に繋がることが期待され、結果として企業業績に好影響を与えるのではないかと考えられています。人的資本経営における一つの取り組み手法と考えられます。

このFWBの特性を明らかにするため、当研究所独自の方法により1万人のアンケート調査結果からFWBをスコア化しました※2。一人ひとりを100点満点でスコア化し、その結果を25点刻みでFWBステージを低位からFWB低、中下、中上、高の4段階のステージに分類した場合の構成比が図表1です。全体の数値を確認すると平均点は、52.5であり、25点以下のFWB低は7.7%、50点以下のFWB中下は36.6%、やや高めの75点以下のFWB中上は45.7%とボリュームゾーンになっており、75点超のFWB高は10.0%となっています。職業で分けた場合は会社員53.1、公務員54.2と相対的に高めとなり、専業主婦(主夫)48.8、および自営業等45.5と低めになっています。なお、本稿のすべての図表は本研究所実施の金融リテラシー調査結果※3に基づきます。

〔図表1〕職種別FWBスコアの平均点と分布

 

次にFWBと関係性のあると考えられる保有金融資産の多寡との関係について確認します。FWBスコアの基本特性として、保有している金融資産が多いほどFWBスコアが高いとの関係性が過去の調査から明らかになっており※1、この関係性は今回の調査でも変化ありませんでした。

〔図表2〕金融資産別FWBスコア

 

また、年収とFWBとの関係性についても検証しましたが、年収が高いほどFWBスコアが高いことが確認できました。ただし、その関係性は金融資産ほど強くないことから、本稿では金融資産を軸に考察することにします。また、ここから先は企業勤務者データ8,500人を対象として議論を進めることにします。