「顧客本位の業務運営」により毎月分配型ファンドは縮小へ
この分配金競争に待ったをかけたのが、金融庁だった。2014年に公表された「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」の中で「フィデューシャリー・デューティ―」という言葉が初めて使われ、その後は今やおなじみの「顧客本位の業務運営」という言葉に置き換えられていく。さらに2017年3月には「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表。販売会社や運用会社にさまざまな取り組みが求められるようになるが、過度な分配金の抑制もその1つだった。「金融庁は運用実態に比べて高い分配金を出している毎月分配型ファンドを厳しく評価しました。その結果、多くの毎月分配型ファンドが分配金の引き下げを行ったため、大量の資金が流出していったのです」(清家氏)。
加えて、2014年にはNISAがスタートし、「NISA向けのファンド」の条件の1つとして「分配頻度が低いファンド」があげられた。2018年にスタートした「つみたてNISA」の対象商品からも毎月分配型ファンドは排除され、「長期・積立・分散投資」が重視される中、毎月分配型ファンドは急速に存在感を低下させていく。ランキングにもその影響は表れていて、2015年の純資産残高では上位10ファンドのうち8本が毎月分配型ファンドだったのに対し、2020年には4本にまで減少している。
そして2024年には新NISAがスタートし、低コストのインデックスファンドが急速に台頭していったのは、記憶に新しいところだろう。「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」はその代表と言え、2025年のランキングでも、「残高、資金流入額ともに突出している」と清家氏。一方で、「低コストのインデックスファンドが主流になったことで、資産運用業界全体が薄利のビジネスとなり、運用会社も販売会社も収益面では厳しい環境に置かれています」とも指摘する。
収益環境が厳しくなる一方でストック型のビジネスが拡大
収益環境が厳しさを増す中、徐々に注目が高まってきた商品がファンドラップだ。ファンドラップの直近の残高は、合計で約24兆円にまで拡大。このファンドラップをコア商品に据え、いわゆる「残高営業、資産管理型営業」にシフトする販売会社も増えてきている。ファンドラップのフィーや投信の信託報酬などのストック収入で販管費をどれだけ賄えたかを示す「コストカバー率」が、70%を超える証券会社も現れてきているという。厳しい環境下でありながら、より安定的なビジネスを確立しつつあるわけだ。
かつては販売手数料の獲得を目的に商品の乗り換えを促す「回転売買」が横行していた証券業界だが、銀行と比べてより柔軟に変化してきているとも言えそうだ。前述の投信残高に占める証券会社経由の比率が、ここ数年で急上昇した最大の理由はネット証券の成長にあるのだろうが、そうした柔軟性も要因の1つとなっているのかもしれない。
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ここまで見てきたように、投信市場は制度や規制、市場環境、販売スタイルの変化といったさまざまな要素の影響を受け、売れ筋ファンドも20年間で目まぐるしく移り変わってきた。投信ビジネスの在り方についても、収益性の低下をはじめ課題は多くあるものの、資産管理型営業へのシフトに代表されるポジティブな変化も少なくないのは確かだろう。
そんな現状を踏まえ、清家氏は次のように打ち明ける。「私には山一證券で営業を担当していた経験もありますが、当時は『顧客本位の業務運営』とはほど遠いやり方で、会社の収益を優先していたのも事実です。多くの営業員が同様でしたから、それも破たんへとつながる一因だったのかもしれません。しかし、現在は資産管理型営業が普及しつつあり、顧客の目的と金融機関の目的が『運用資産の拡大』という
1点で合致してきています。つまり、運用資産が拡大すれば当然、顧客の利益となり、結果として金融機関の収益も増えるわけですね」
一方で、足元でもプルデンシャル生命保険の不正がメディアをにぎわせるなど、相変わらず金融機関の不祥事がひきもきらない。それだけ「顧客本位の業務運営」を継続するのは難しいとも言え、だからこそ、「企業も社員も高い理念を掲げ、強い信念を持ち続けることが大切」だと清家氏は強調する。「私が30年前にはできなかった『顧客本位の業務運営』が、販売現場で当たり前なものになっていくのを願っています」と締めくくってくれた。