家族と過ごす時間の価値

稔が写真を1枚1枚凝視していると、隣に利香が座ってくる。

「旅行行けなくて寂しかったけど、こうやってみんなでいるのも楽しい」

利香は満面の笑みで稔を見てきた。

「お父さん、いつも遅いからさ、こうやって一緒にいられるの、嬉しいよ。でも遅いのは利香たちのためにお仕事をしてくれてるからなんだよね」

稔は黙って頷く。

「いつも私たちのためにお仕事ありがとうね」

その瞬間、視界がぼやけ涙がこぼれ落ちてきた。泣き顔を見られたくないととっさに顔を隠す。すると頭、背中、腕を触れられる。誰がどこを触れているのかすぐに分かった。

旅行は楽しいしとても大事なことだ。でもこうして家族の時間を過ごせるだけでもそれはとても素晴らしいことだと気付かされた。涙が止まった後は少しだけ気恥ずかしい思いだったが、稔にとって今年の年末も今までと遜色がないくらい素晴らしい思い出になった。

力をもらえる家族の笑顔

それから年明けも家族でおせちやお雑煮、美味しいものを食べて過ごした。

年末年始を満喫して仕事始めの日を迎える。

稔はすっきりとした気持ちでスーツに着替え玄関で革靴を履く。里英は稔が立ち上がったタイミングで鞄を渡してくれた。

「それじゃ頑張ってね」

「ああ、行ってくるよ」

玄関の棚をちらりと見ると写真が新しくなっていた。そこには泣きはらした稔と笑顔の里英、猛、利香がソファに座っている。その写真を見るだけで仕事を頑張ろうと力をもらえる気がした。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。