29歳の彼との始まり

待ち合わせをして会った翔太は写真そのままのイケメンで、最初はぎこちなかったがデートを重ねるごとに本当の性格を見せてくれるようになった。翔太はとにかく素直な性格で甘えんぼうで、今まで付き合ってきたどの男とも全く違うタイプだった。

つい先日のデートのときも、待ち合わせをしていた駅前の公園で美穂の姿を見つけるや、翔太は嬉しそうに顔をぱっと明るくした。

「良かった、来てくれないかと思ったよ」

「失礼ね。今まで1回もドタキャンなんてしたことないでしょ」

軽口をたたき合ってから並んで歩き出す。2人でいることが当たり前になってきている気がして嬉しかった。

「今日の服、また良い感じだね。そういうラフな感じ好きだな」

「またそうやって……。おだてても何も出ませんよ」

翔太はいつも美穂のことを何かと褒めてくれる。もちろん悪い気はしない。

その日に翔太が案内してくれたのはSNSで話題になりそうな映えを意識したようなカフェだった。

白と薄ピンクを基調とした店内で小さな丸テーブルに座らされた。周りのお客さんたちは若い女の子が多く、美穂1人なら絶対に立ち寄らないタイプの店だった。

「美穂さんは何にしますか? 俺はこのイチゴクリームパンケーキのドリンクセットにしますけど」

コーヒーで済ませたいところだったが、さすがに合わせたほうがいいと思い美穂はスコーンを生クリームとジャムで挟んだサンドを注文した。料理が来るのを待ってる間、翔太が椅子を動かして対面から横に並ぼうとしてくる。

「え? な、なんで?」

思わず質問すると翔太は照れくさそうに頬を緩める。

「だってせっかく2人でいるのに離れてるの嫌じゃん」

「いや、テーブルも狭いし隣になんてきたら料理を置けなくなるって」

「大丈夫だって。向かい合ってるの寂しいから」

そう言って翔太は美穂の制止を聞かずに隣に並び嬉しそうな笑みを浮かべる。まっすぐに好意を向けられてるのが伝わり、気恥ずかしい気持ちになった。

甘ったるいスイーツを食べてそこから原宿で洋服を見て回った。「これ似合いそう」とか「これって美穂っぽい」といくつものかわいらしい服を翔太に提案されて試着を何度もさせられた。

甘えるところはあるが少しわがままでこちらを振り回すようなときもある。でもそのどれもが新鮮で美穂にとってはとても幸せな時間だった。

   ◇

美穂ののろけ話を肴にしながら、麻紀はいつもより少しだけ早いペースでビールをあおる。

「へえ、そんな感じだったんだ〜。まあ好青年って感じだね」

「はい、本当にいい人で良かったです」

麻紀は美穂に優しい目を向けてくる。

「ちょっと将来のこととか考えてる?」

麻紀に問われて美穂はゆっくりと頷いた。結婚がどうとかは現実味がないが、それでもこの幸せがずっと続けばいいなとは思っていた。

●マッチングアプリで出会った8歳年下の彼氏・翔太と幸せな時間を過ごす美穂。初めてのクリスマスデートで、美穂は自分の心に広がる違和感に気づき始める…… 後編【彼氏が与えたい幸せ vs 私が欲しい幸せ…8歳差カップルを引き裂いた「埋まらない溝」の正体】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。