父が遺した町工場と株式

彼ら兄弟の父が経営していたのは、小さな町工場。知り合いの会社の下請け業務からスタートし、父と長男の陽一とが長年二人三脚で切り盛りしてきた結果が現在だ。

晩年、彼らの父は半隠居し、実質的に陽一が後を引き継いだ。そこからシステムの効率化に舵を切ったことで急速に業績が伸び、社員数も増えていた。今や会社の顔といえば対外的にも対内的にも父ではなく陽一だ。

しかし、順調だったのもつかの間。先日、突然父が亡くなった。これによって会社の株式は相続財産として扱われることになった。

会社の顔が陽一となったとはいえ、父はいわゆる会長。株式は父がすべて保有している。つまり、実家、預貯金、車、その他美術品、それらすべてと一緒に会社の株も遺産として相続対象に加えられた。

相続人は陽一、健太の2人だけ。法定相続分をもとにすれば、株式は半分で分けられてしまう。そうなれば安定した経営を考える上で確実にマイナス要素となる。

経営者である陽一の考えとは裏腹に、皮肉にも健太は株も財産の一種としか考えていない。

事前に通話で話をした時も「当然、俺にも権利があるだろう」と主張してきた。

陽一は「会社の株を保有することは社員や取引先の人たちの人生も背負うことになるんだ。ここは俺に任せてくれ」と懸命に説得していた。

だが効果はなかった。それどころか健太は「馬鹿にしてるのか⁉ どうせ社員みんなで無能な弟だって笑ってんだろ」と激怒した。

それもそのはず。健太は元々営業部長として当時専務だった陽一を支えていたのだが、5年ほど前に父や兄からの期待やプレッシャーに耐え切れず、体を壊して退職している。

その後は叔母に紹介された会社で働いているが、それも本意ではないようで、陽一の存在がコンプレックスとなってしまっているのだ。

その事実を踏まえると、健太の反応も理解できなくもない。

●対立する兄弟。揺れる経営権。この相続争いは、果たしてどのような結末を迎えるのか。後編【「これでは会社が壊れる」半年続いた弟との相続会議に終止符を…経営者の兄が選んだ究極の決断】では陽一の決断と、兄弟のその後を明かす。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。