経済対策

総合経済対策もポイントだろう。25年度の補正予算で21.3兆円程度の規模となった。中でも今回の対策の柱となるのが物価高対策である。具体的には、ガソリン・軽油の暫定税率廃止に加え、子供一人当たり2万円給付や冬場の電気・ガス代補助金が盛り込まれた。また、重点支援地方交付金を活用し、地方自治体主導での物価高対策を実施する。なお、国民民主党が要求する年収の壁引き上げも期待されるが、引き上げ幅などはまだ流動的なため、今後の税制改正に向けた議論の行方が注目される。

また、「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」として経済安全保障の強化や食料安全保障の確立、健康医療安全保障の構築・人への投資の促進が盛り込まれている。しかし、こちらは人手不足などにより執行が遅れる可能性があることには注意が必要だろう。

その他注目される項目として、「賃上げ環境の整備」があげられる。しかし、石破前政権時に掲げられた2020年代に最低賃金1500円の目標は撤回されており、最低賃金の伸びは鈍化する可能性が高い。また、「防衛力の強化」として国家安全保障戦略に定める「対GDP比2%水準」について、補正予算と合わせて、2025年度中に前倒して措置される。

なお、マクロ経済全体に対する効果(内閣府試算)として消費者物価を2~4月に▲0.7%、5~12月に▲0.3%押し下げ、実質GDPを年成長率換算で+1.4%押し上げると示されているが、25年度の補正後国債発行額は昨年度を下回る見込みで、一定の財政規律は維持されている(図表5)。

 

 

トランプ政権

26年もトランプ政権の動向は景気を大きく左右するだろう。市場では、引き続きドル高けん制、シェール増産、追加関税に加えて、トランプ減税の効果が発出することがコンセンサスとなっている。

25年は、市場の想定を上回る高関税が打ち出されたことにより、直後が最大のドル安局面となり、その後のドルはやや持ち直した。26年は5月にパウエルFRB議長が任期満了となり、ハト派の議長が任命されることになれば、今以上にドル安圧力が強まることが予想される。

また、前回のトランプ政権(2017~21年)を振り返ると、トランプ関税発動二年目はインフレ率が低下した(図表6)。背景には、トランプ関税発出に伴う景気減速により原油価格が下落したことがある。となれば、既に景気減速の観測で落ち着いている原油価格が安定を続ければ、26年は米国のインフレ率も低下傾向がより明確になる可能性があるだろう。

 

 

 

そうなれば、FRBは利下げを進めやすくなり、政策委員の見通し中央値に近いペースで利下げが進むことになれば、27年にも米国の政策金利は中立金利とされる3%近くに収斂することになるだろう。となれば、トランプ減税の中でも特に法人減税の効果もあり、26年の米国経済は、前回のトランプ政権下で関税が発動された翌年と同様に堅調に推移する可能性がある。

一方、一期目のトランプ政権は追加関税を2年目に打ち出し、中間選挙のタイミングで景気が最悪になったが、今回は25年中に追加関税が打ち出されたため、追加関税2年目の11月の中間選挙に向けてトランプ氏はなりふり構わぬ姿勢で景気を支えることになるだろう(図表7)。

 

 

 

まとめ

なお、2026年も企業の採用難は継続し、人件費の上昇圧力は残ることが予想されるが、これは企業の利益を圧迫する要因にもなる。こうしたことから、2026年は成長の天井となる供給力の強化が、より喫緊の課題として浮上するだろう。そして、少なくとも高市総裁の公約通りに政策が進めば、日本経済における最大の課題である供給力の強化が進展することになろう。そうした意味では、高市政権の経済政策も初期段階では、いかに国民の暮らしと安全・安心を確保すべく、25年度補正予算に政策を総動員し、雇用と所得を増やし、消費マインドを改善し、税収が自然増に向かう「強い経済」を実現できるかにかかってこよう。

2026年にかけては、実質賃金のプラス転化とそれに伴う個人消費の持ち直しが、景気回復のメインシナリオとして期待される。しかし、トランプ政権の関税動向や、地政学的なリスクが世界経済を下押しした場合、日本の景気回復シナリオは容易に崩れる可能性がある。また、「賃上げが中小企業まで十分に浸透しない」という構造的な問題が解決しない限り、持続的な経済好循環の実現は難しいと言えるだろう。