制度開始から2年あまりが経過し、資産形成のインフラとして定着しつつある新NISA。市場の急変にも動じない投資家が増えている一方で、具体的な投資手法やリスク管理への悩みは尽きない。そこで今回は、モーニングスター・ジャパン マネジャー・リサーチ部長の元利大輔氏に3度の市場急落を経て見えてきた日本人投資家の成熟について聞いた。後半では同氏によるモーニングスター掲載の注目コラム「『一喜一憂しない投資家』が増えてきた: 新NISA3年目の現在地」を転載。「年初一括買いの妥当性」や「最新の資金フロー」をデータに基づき詳しく解説する。

NISAの普及を後押しした「2つの要因」

――長年、現預金志向が強いとされてきた日本人の間でNISAが定着した背景には、制度面の拡充以外にどのような要因がありましたか。

制度面の拡充以外では、いくつかの追い風があったと考えます。

一つ目は、長らく続いてきたデフレから脱却しインフレの環境となったことです。特に老後の資金など長期の視点で考えると、インフレの環境下では「貯蓄だけでは資産が目減りする」ことになります。また、足元でも食品や日用品が値上がりしていることからインフレを実感しやすくなっており、その結果、インフレにも耐えられる投資の必要性を感じる人が増えているのではないかと考えます。

二つ目は、低コストのインデックスファンドの普及です。これらのファンドの多くは、SNSや動画メディアを通じて情報が広がり、投資未経験層も目にする機会が増えました。このような追い風のなかで2024年のNISA制度の拡充が行われ、NISAを通じた長期積立投資が一気に広がりを見せたと考えています。

――2026年第1四半期の流入先を見ても低コストのインデックスファンドの強さが際立っていますが、一方で資金フローの多様化も見られます。今後、分散の観点から、個人投資家の関心がアクティブファンドやオルタナティブ資産(金関連など)へ広がっていく予兆はありますか。

低コストの世界株式・米国株式などのインデックスファンドへの資金流入は依然として衰えておらず、個人投資家が資産運用のコアへの投資を続けている状況に変わりはありません。

一方で、金関連ファンドやアロケーション型ファンドへの流入が前年同期を大きく上回っていることは、株式一辺倒のポートフォリオへの気づきが生まれていることを示唆しています。インデックスファンドで投資の第一歩を踏み出した投資家が、複数回の市場急落を経験し、次第にリスク分散の大切さに気づき始めているケースも多いのではないでしょうか。

今後の広がりは市場環境にも左右されますが、分散投資の重要性は日本の個人投資家の間で少しずつ浸透しつつあると感じています。

市場急落時の不安には「目的の再確認」が有効

――今年3月の市場不安定化局面でもパニック売りが観察されなかった点に言及されています。新NISA開始以降、日本人の投資スタイルはどう変化したのでしょうか。また、市場急落時に冷静さを保つ方法があれば教えてください。

新NISA開始以降、私たちは市場の急落を3回経験しています。1回目は2024年8月初旬で、この時は投資信託市場でパニック売りのような行動が確認されました。しかし2回目(2025年4月初旬)および3回目(2026年3月)では、そのような動きは見られませんでした。これはデータとして非常に印象的な変化です。

1回目の急落でも売らずに残った投資家は、その後の市場の回復も経験しています。急落時に慌てず投資を続ける重要性を実感したことが、2回目・3回目の冷静な行動につながったのではないでしょうか。

市場が急落すると不安になってしまう方は多いと思います。そのような時には、「自分が何年後に、何のために、このお金を使うのか」という目的を改めて確認することが有効です。長期投資において重要なのは市場に居続けることであり、タイミングを図ることではありません。NISAでの積立投資は、投資のタイミングを分散させる強力な「仕組み」でもあります。