新たな戦場、「宇宙」「サイバー空間」「認知領域」

多少、漠然とした話になってしまったので、ここからは高市新政権の話に戻り、筆者なりに関連する投資テーマを考えていきたい。高市氏を思い浮かべたときに真っ先に浮かんでくるワードは「防衛」だ。高市氏は防衛力強化と防衛費増額を掲げており、このほど来日したトランプ米大統領にも伝えている。もっとも、高市氏はおそらく、もう少し広い意味で「防衛」をとらえているだろう。

「陸」「海」「空」に次ぐ、第4、第5、第6の戦場と言われるのが、「宇宙」「サイバー空間」そして「認知領域」だ。現代の戦争において、宇宙を飛びまわる衛星システムは敵への攻撃や偵察、情報収集において欠かせない存在だ。そもそも宇宙用ロケットと軍事用ミサイルなど、宇宙と防衛は共通の技術が使われてきた歴史もある。サイバー空間は宇宙同様、防衛に欠かせないインフラになっているだけでなく、国や軍事に係る機密情報に対するサイバー攻撃から守る意味でも、率先して強化しなければいけない分野といえる。

「認知領域」を簡単に言えば「人間の脳みその中」である。例えば、「ディープフェイク」と呼ばれる虚偽情報を、SNSなどを通じて拡散し、人々の心を支配するような行為はまさに認知領域への攻撃と言えるだろう。認知領域を支配することで、世論を操作し、あわよくば社会の分断を引き起こすことも可能となる。AI(人工知能)の発達によって、認知領域への攻撃はより巧妙になっており、実効性も強まっている。

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現代の防衛はこうした新しい戦場に対する攻撃も視野に入れた「ハイブリッド戦争」を想定しなければならない。そして、新しい戦場は、技術の軍民共用(デュアルユース)や民間技術の積極活用が不可欠な分野と言ってよいだろう。であれば、この3つの新しい戦場に絡む技術や分野が重要な投資テーマになるのではないか。なぜなら、国策の恩恵に与ることで技術力を高め、新しいイノベーションを生み出すことにもつながるためだ。

その点、まとめてみたのが上の表だ。戦場を投資の手がかりにするのは物騒な話ではあるが、インターネットも戦争で使われた技術の応用である。腰を据えて投資できるテーマを探るひとつのアプローチではあるだろう。
 

高市氏の「指示書」から得られる投資のヒント

高市氏が新しい戦場を意識していることは、組閣に合わせて18人の閣僚に出した「指示書」からもうかがえる。2025年10月23日付の日本経済新聞電子版に掲載された「指示書」全文の中には、「宇宙」や「サイバー」といった文言がちりばめられている。

例えば、林芳正総務相、松本尚デジタル相に対しては、「関係大臣と協力して、高度なサイバー攻撃やサイバープロパガンダ、偽情報等に対応できる技術開発・人材育成を加速する」といった具体的な指示を出している。インターネットやデジタル空間を通じた虚偽情報の拡散を意味する「サイバープロパガンダ」という言葉を敢えて使うあたりからも、高市氏の危機意識の高さが分かる。

認知領域を新たな戦場と捉えた場合、ソフトパワーの存在も無視できない。日本の代表的なソフトパワーは言うまでもなく、アニメ、マンガ、ゲーム、そして、それらに登場するキャラクターだろう。こうしたソフトパワーは日本の価値観を反映したナラティブ(物語)を生み出し、ネガティブなサイバープロパガンダに対抗する武器となる。つまり、ソフトパワーは日本の外交や安全保障において極めて重要な存在といってよい。

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実際、「指示書」の中にも、茂木敏充外相、松本洋平文部科学相への指示として、ソフトパワー外交の強化について触れられている。高市氏の指示書の内容は非常に具体的かつ明瞭だ。中長期の投資のヒントを得る意味においても、一読をおすすめしたい。