史上最大の下げ幅を記録したゴールド
これほど短期間に価格が上昇してしまうと、その反動安の影響も大きく出てくるものだと懸念されていたところ、10月21日にNY金先物市場(中心限月)は、1トロイオンスあたり4359.4ドルから4109.1ドルへと前日比5.74%も下落した。1日の下落幅250.3ドルは過去最大の下落幅を記録。1日で5%を超える下落率は1年間で28%超下落した2013年に記録して以来の下落率の大きさだった。
2025年8月以来の金価格の上昇は、米FRBが年末に向けて利下げを継続的に行うという見通しに立ったものだった。金利を大きく下げたユーロ、そして、金利を引き下げ始めた米ドルなど法定通貨の価値が利下げによって失われていくことが実物資産としてのゴールドの価値の向上につながるとみなされた。10月21日の下落には、特段にゴールド価格にネガティブな材料が出たわけではない。急速に上昇したゴールド価格の上昇の勢いが鈍ったことが売りのサインとなり、「売りが売りを呼ぶ」という動きになって急落することになった。
このような短期間での大きな価格変動は、相場の転換点で起こりやすい。10月21日の値動きを経験した投資家は、ゴールド価格の不確かさを痛感させられただろう。「上がるから買う、買うから上がる」という10月20日までのような一方通行の値動きには慎重になるものと考えられる。
ゴールドへの投資は、資産形成の手段としては「保険」のような役割を果たすと考えられてきた。戦争や大規模な自然災害、あるいは、2020年3月に発生した「コロナ禍」のようなイレギュラーな状況が起こった時に、株式や債券はともに大きく値下がりすることになるが、そのようなイレギュラーな環境下にあってこそ実物資産としての価値が発揮されてゴールドの変わらぬ価値が見直される。このため、株式や債券に投資している人は、万が一の大きな逆風に備えて資産の一部でゴールドを保有しておくことが「保険」のような安心効果があるという考え方だ。
しかし、2025年のゴールド人気は、明らかに「保険」の役割ではなく、ゴールドの値上がりに期待した投資の動きだった。それは2カ月足らずの間に価格が25%も値上がりするという極端な価格上昇にまで至っている。10月21日の急落は、その極端な熱狂に冷水をかける効果はあったようだが、熱狂が完全に冷めたわけではないだろう。これからのゴールド投資には、「値上がり益を狙う」という積極的な姿勢ではなく、株式や債券への投資の「保険」としてのそもそもの機能を意識した態度が重要になってくると考えられる。
執筆/ライター・記者 徳永 浩
