複雑な親子関係の影

みずのさんと両親の関係は、決して単純なものではありませんでした。

「私の両親は、正直言って仲がよい夫婦とはいえなかったんです。父は寡黙で、子どもと遊ぶよりも仕事を優先する人。母は元保育士で、厳格な人でした」

特に思春期は母親からの厳しい管理が続きました。門限、進路、日々の過ごし方にいたるまで、細かく管理された思春期には、みずのさんは常に「見張られている」ような窮屈さを感じていたといいます。

「家を出るまで、私はずっと息がつまるような毎日を送っていました。両親に対して、育ててくれたことには感謝しています。けれど、心のどこかでずっと距離を感じていたんです」

そんな経験から、みずのさんは「両親のようにはならない」と考えてパートナーと結婚し、子育てをしてきました。そして幸せな日々を送っていた矢先に、母親の病気が発覚したのです。

楽しみを老後に先送りしても実行できるとは限らない

母親の入院は、みずのさんに思いがけない現実を見せつけることになりました。それは、父親についてでした。

「父は退職後に購入した家で、これからの夫婦の第二の人生を母と楽しむつもりだったらしいのです。夫婦の趣味だった山登り、釣り、バードウォッチング……ようやく自由になった時間で、いろいろなことをゆっくりやっていこうと話していたそうです」

しかし、そんな計画はわずか半年で終わりを告げました。退院後の母親は、日常生活は送れるものの、以前のようにアクティブに動くことはできなくなったのです。

「家庭をまかせきりだった父は、母が倒れたことで日々の生活がままならなくなってしまいました。何もできないのではなく、“何もしてこなかった”ことのツケが、一気に押し寄せたようでした」

そうした両親の姿を見て、みずのさんは考えました。やりたいことを「老後のためにとっておく」という考え方は、あまりにも不確かなものではないか、と。

●みずのさんは母の病をきっかけに、どのように人生観を変えていったのか? そして家族との関係はどう変化したのか? 後編「楽しみを老後にとっておくなんてもったいない」母の病で価値観が一変、30代女性が気付いた人生の真実【読者体験談】でお届けします。