企業がFWB向上に取り組む意義
なぜ、企業は従業員のFWB向上を支援しているのでしょうか。
企業経営の目線では、昨今、「ウェルビーイング」への注目度が高まっています。労働力が希少な社会になり人材確保が課題となるなか、従業員に働きがいをもっていきいきと働いてもらうことが重要なアジェンダとなっています。
従業員のウェルビーイング向上に関する取り組みは様々なかたちで行われていますが、忘れてはいけないのが、従業員の「経済面での充足度」です。もちろん、給与の引き上げなども従業員の経済的な充実の重要な要素です。しかし、ウェルビーイングに寄与するのは報酬額などの「客観的な水準」に加えて「今の収入で何とかやっていける」という「主観的な感情」が大きな役割を果たしていることが分かっています。従業員がキャリアプランだけでなく、ライフプランやマネープランについても主体的に考え、資産形成を促すことにより、経済的な不安を解消することが、ひいては従業員のウェルビーイング向上につながります。
ミライ研の調査データで興味深いものをご紹介します。(図表2)は、2022年に行ったミライ研の調査において、会社員・公務員に対し「資産形成に関する福利厚生制度(財形貯蓄や企業年金、持株会、社内預金など、貯蓄・運用のための制度)の充実度が就職先選定に影響したか」をお伺いしたものです。調査結果をみると、20代では37.6%、30代では29.9%が「影響した」と回答しています。若い世代ほど、就職先の選定に際して「資産形成をサポートしてくれる福利厚生制度の充実」が重視されている傾向がうかがえます。これは、企業の人材確保策において、家計の資産形成支援(FWB向上のサポート)が、若い世代にとって大きな魅力のひとつになっていることを裏付けています。
【図表2】資産形成に関する制度のサポートが就職先の選定に影響を及ぼした割合
「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)
さらに、企業の中には、これらを人的資本経営における「従業員のFWB向上にむけた取り組み」として、有価証券報告書や統合報告書などで投資家に開示している企業も増えています。
企業勤めの方は、会社制度を賢く活用しよう
ここまで取り上げた資産形成の支援策以外にも、各種融資制度(住宅・教育など)、持株会ほか株式報酬制度、iDeCo+、団体保険、健康保険制度なども、FWBにつながる会社の支援策といえます。企業に勤めている皆さんは、職場で行われている金融教育機会への積極的な参加に加えて、有利な各種の会社制度を理解したうえで、それらを賢く活用することが、「家計のウェルビーイング」を高めることにつながるものと思われます。
(筆者:三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員 清永 遼太郎)
●参考記事:「家族でお金について話す」ことは意外と重要! 学生時代から始められる、お金のウェルビーイングを高める方法とは