金融包摂のズレ
さて、そもそもなぜリブラに注目が集まったのでしょうか? 「金融サービスの在り方」の問題が理由の1つです。金融サービスと言えば銀行が思い浮かびます。私たちが通貨を利用して交換したり決済したりする際には、銀行を利用することが一般的な常識になっています。
しかし、世界に目を向けると状況は異なります。
金融包摂(きんゆうほうせつ)に不平等性が生まれていたのです。
「金融包摂」とは英語で「Financial Inclusion」。国連の関連機関である世界銀行の考え方で、銀行を始めとする金融サービスに国や地域で差異が生じることがないようにしようというものです。
世界銀行によれば、金融包摂とは「すべての人々が、経済活動のチャンスを捉えるため、また経済的に不安定な状況を軽減するために必要とされる金融サービスにアクセスでき、またそれを利用できる状況」と記されています。日本ではあたりまえのように、どこにでも金融機関が存在します。これは世界では珍しいのかもしれません。
国や地域によっては金融サービスを提供する銀行がない国・地域や、あってもそれは都市部に集中しており、地方には銀行もなければATMすらないことは珍しくありません。
そのような国・地域の人も生活やビジネスをしていますから、金銭の交換・決済は行ないます。
そして、そういった国・地域の人もほとんどがスマホは持っています。そのスマホで銀行やATMと同じことができれば、金融包摂が可能になります。
スマホの持ち主の多くは、フェイスブックのようなSNSを使うことができます。そうすると、リブラなどのステーブルコインで金銭の交換・決済ができれば、銀行がなくてもATMがなくても24時間金融サービスを得ることができるのです。これがリブラに皆が着目した理由です。
しかし、リブラは成功しませんでした。その代わり、各国の中央銀行が金融包摂の不平等への対応、あるいは競争力強化のために「デジタル通貨」の検討へと動き出しているのです。
「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本
著者名 山本御稔
発行元 日本実業出版社
価格 1,980円(税込)