2018年、大手仮想通貨取引所コインチェックから約580億円分の仮想通貨NEM(ネム)が不正流出する事件が発生しました。社内ネットワークがマルウェア(コンピュータウイルス)に感染し、ネットワーク上の資産が奪われたとされています。
“現代の銀行強盗”とも呼ばれるこの事件を入り口に、仮想通貨や暗号資産とは何か、なぜこれほどまでに注目されるのか。その仕組みを、コア・コム研究所代表の山本御稔氏に解説してもらいます。(全4回の4回目)
●第3回:通貨から“資産”へ…ビットコインが「デジタルの金」と呼ばれるようになった理由
※本稿は、山本御稔著『「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。
ステーブルコイン
「資産」としての認識があたりまえとなった暗号資産ですが、2019年、ある出来事により、一般受容性が与えられる可能性が生まれました。
GAFAの一角のフェイスブック(現・Meta)が、Libra(リブラ)という暗号資産の利用を提案したのです。フェイスブックの利用者は20億人を超えていると言われています。その20億人がリブラを利用するのであれば、「みんなが認めている」とも言えるでしょう。一般受容性に問題はなくなります。
これに対して、アメリカやEU圏の中央銀行は「ステーブルコインにするのなら」と注文を付けました。ステーブルコインとは、いつでも法定通貨に切り替えることができ、かつ、その資産価値が複数の国の法定通貨と連動する、通貨バスケット型の通貨です。
たとえば、100リブラを発行するならば、発行元はその裏付けとして50リブラ相当のドル、25リブラ相当のユーロ、25リブラ相当の円を保有する、というイメージです。
ステーブルコインは外国為替に似ています。円でドルを買ったとして、そのドルはいつでも円に換えられます。それぞれの中央銀行が通貨を保有しているからです。リブラの場合には中央銀行がありませんから、リブラを発行したフェイスブックはそれと同等の中央銀行の通貨を保有しておくことが求められます。
当初はフェイスブックも、ステーブルコインとしての利用の可能性を探りました。「Diem(ディエム)」に改称しつつ可能性を模索するも、最終的には莫大な費用や保管や、マネーロンダリング(不正な資金の洗浄)の問題から、このプロジェクトをあきらめました。
この段階で、ビットコインもディエムも、暗号資産という存在はどれも一般受容性に届かなくなり、暗号資産を巡る動きは一段落しました。中央銀行が発行する法定通貨だけが通貨として認められるという以前の状態に戻ったと言えます。