マッチングアプリを起動し

動き出せば早かった。

前の彼氏ができたときに消したマッチングアプリをもう一度インストールし、プロフィールや写真を最新のものに変える。いいねやメッセージはすぐに集まるから、麗香はわらわらと集まってくる男たちのプロフィールに目を通していく。

仕事と同じだ。タスクを設定し、基準を決め、それに基づいて素早く判断していく。マッチングしたあとは商談。お互いの希望をすり合わせ、合致しそうなら会ってみる。そう思うと、やや面倒に感じていた恋愛的事務処理は、驚くほどスムーズに進んだ。
退勤前にスケジュールアプリで予定を確認する。今日会うことになっているのは、フリーのコンサルタントをやっているという4つ上の薬師俊弥という男だ。

幼少期はスペインで過ごした帰国子女で東大卒。卒業後は外資の大手コンサルタント会社に入社。27歳のときに独立し、以来フリーのコンサルタントとして働きながら、現在も多様な企業のアドバイザーなどを歴任している。金がある分、容姿にも気をつかっており身綺麗で、趣味は健康維持も兼ねたジムでの運動。バツイチということだったが、些細な問題だった。

会社の最寄り駅まで向かうと、ロータリーの端に黒のディフェンダーが停まっていた。

「こんばんは。麗香さんですか?」

「はい。今日はありがとうございます」

麗香は小さく会釈をする。

アプリに載せていた写真よりも若く見えるのは、表情が上品で柔らかいからだろう。時計やスニーカーなどそれとなく高級ブランドの一級品を身に着けているファッションセンスも悪くない。男の香水は反対派だったが、薬師からは柔らかく上品な香りがする。

「それじゃ、行きましょうか」

薬師は助手席の扉を開けて麗香の乗車をエスコートする。麗香はもう一度会釈をして車に乗り込む。

当たりを引いたに違いない。仕事を通じて培った勝負勘が麗香にそう告げていた。予約しているというスペインバルに向けて走り出した車のなかで、麗香は“商談”のシミュレーションを始めた。

●結論から言えば麗華の婚活は失敗だった。麗華は最悪な形で薬師の正体を知ってしまう。男を見下していた自分がまさか……。傷心の麗華を救ったのは、まさかのストーカー男・八代だった。後編:【婚活で出会った東大卒・コンサル男の正体 失意のバリキャリ女子を救ったストーカー男とのバーでのひととき】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。