都市部では核家族化が進む

たとえば、農村部の合計特殊出生率は2.2とされるのに対して、都市部の合計特殊出生率は1.6と人口維持に必要とされる水準(1.8)を下回っているとされており、都市部においては人口減少の動きが顕著になっている様子がうかがえます。

なお、かつてのインドは合計特殊出生率が6.0に近い水準にあるなど、人口爆発とも呼べる状況に直面してきました。そのため、当時の政府は女性に対する避妊教育のほか、家族計画プログラムの積極的な推進による人口抑制策を展開しており、1970年代以降の合計特殊出生率は大幅に低下してきた経緯があります。

近年は高等教育の機会拡大に伴い女性の教育水準もともに向上しており、そうした動きに連動する形で所得水準の比較的高い地域においては女性が高等教育を享受することができるようになっています。そして、都市部を中心に自立した女性として生活を送ることが可能になったほか、そうしたことを背景に結婚や出産に対する見方も変化するとともに、合計特殊出生率の低下が顕著になっているとの見方もあります。

さらに、近年の経済成長を受けてインドにおける家族観が変化していることも出生率の変化を促す一因になっているとの見方もあります。それは、かつてのインドにおいては大家族がひとつの家の下で生活を営む姿が多くみられたものの、都市部においてはいわゆる核家族化が進んでいるとともに、都市部においては生活費や教育費が高騰するなど、子供を産み育てる環境が大きく変化していることも影響していると考えられます。その意味では、インド全体では少子高齢化が懸念される状況ではありませんが、都市部において着実に進行する少子高齢化は人口動態に影響を与える可能性に注意する必要があります。

●第3回は【「ヒンドゥー至上主義」を掲げる最大与党、外交問題にも発展するインドの宗教対立の実態】です。(3月26日に配信予定) 

インドは中国を超えるのか

 


著者名 西濵 徹

発行元    ワニブックス

価格 990円(税込)