近年、インドの存在感がますます高まっています。
人口は14億人を超え、世界最多。国際通貨基金(IMF)の推計では、2025年中に名目GDPが日本を抜き、世界第4位になる見通しです。日本の国際的な影響力が相対的に低下するなか、投資先としても成長著しいインドが注目を集めています。
そこで今回は、インドを知るうえで欠かせないカースト制度・人口・宗教などについて、第一生命経済研究所 経済調査部主席エコノミストの西濵徹氏に解説してもらいます。(全3回の1回目)
※本稿は、西濵徹著『インドは中国を超えるのか』(ワニブックスPLUS新書)より、一部を抜粋・再編集したものです。
現在も根深く残るインドの「カースト制度」
インドに関する話のなかで必ずと言っていいほどに挙がる疑問に、カースト制度の問題があります。
カーストとは、元々はヒンドゥー教における身分制度であり、ヒンドゥーの教えに基づく区分であったものの、インドにおいては4つの身分(いわゆる「司祭」とされるバラモン(ブラフミン)、「王侯」や「士族」とされるクシャトリア、「庶民」とされるヴァイシャ、「隷属民」とされるシュードラの4つ)がヴァルナとして定着した後、時代を経るにしたがって部族やコミュニティを単位とするジャーティという形に細分化されるとともに、固定化された経緯があります。こうした経緯から、インドにおいてはヒンドゥー教以外の宗教においても、ヴァルナとジャーティの形でカーストが根付くことになりました。

日本においてカーストという言葉が持つ意味を考えると、「〇〇カースト」などといった表現で使用される例が多いこともあり、差別という話に広がりやすいのが実情かと思います。インドでは憲法において不可触民(カーストの外にある被差別民のこと)を規定してきた制度を廃止することを規定しているほか(17条)、カースト(ヴァルナとジャーティ)に基づく差別を禁止する規定も盛り込んでいます(15条)。
ただし、憲法においてはカーストを理由にした差別行為を禁止しているだけであり、あくまでカーストそのものについては禁止されていません。よって、現在においても制度として国民の間に根付いているのが実情です。
近年の経済成長や都市化の進展などを背景に、都市部においてはカーストに対する意識は曖昧になってきており、ヒンドゥー教徒であっても自らのカーストを知らない人もいるようです。その一方で国民の7割以上が居住するとされる農村部においては依然としてカーストに対する認識が根強く残っているとされており、地域差が存在していると考えられます。
インドに進出する日本企業の間にカーストが意識されるようになったきっかけは、カーストが元々職業と大きく結びついてきたことが影響していると考えられます。
ただし、憲法によってカーストに基づく差別が禁止されていることもあり、近年の経済成長を背景にした近代化や都市化、産業の発展を受けて職業選択の自由といった概念が広がており、いわゆる工場労働については様々なカーストに開かれているのが実情です。