三井住友フィナンシャルグループが2023年3月に開始したモバイル総合金融アプリ「Olive」が、サービス開始から2年を待たずに350万口座を突破するなど、急成長を遂げている。クレジットカードと預金口座を一体化させ、証券や保険など多様な金融サービスをワンストップで提供する革新的なプラットフォームとして、デジタル時代の新たなリテール金融モデルを確立しつつある。これまでの開発の軌跡や今後の展望について、「Olive」の開発・商品企画・プロモーション全般を担ってきたキーパーソンに聞いた。

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今から7年ほど前のことである。銀行業界はマイナス金利という厳しい経営環境の下でデジタライゼーションの大波に襲われていた。「個人向けリテール金融は儲からない」という焦燥感はデジタライゼーションの旗手、フィンテックプレーヤーにマーケットを奪われかねないという恐怖へと変わった。

やおら、大手銀行のほとんどがフィンテックの象徴と言えるデジタルマネーの独自開発に盲進し始めた背景にはそんな事情があったが、唯一、この動きに加わらず、ゴーイング・マイ・ウェイに徹したのが三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)だった。その違いは大きかった。野球に例えて表現すると、バットを作るか、それとも、スタジアムを築くかというほどの違いがあった。要は次元が異なっていた。そして、「なんとかコイン」と銘打たれたバットはほとんど未使用のまま次々に消えていった。

一方、SMBCグループでは太田純社長(当時)と大西幸彦・三井住友カード(SMCC)社長が新たなリテール金融のあり方に向けて議論を深め、2020年ごろには節目を迎えていた。例えば、預金口座開設で勢いを増すネット銀行勢といかに闘うのか――。太田氏は奇抜な発想の経営者という評判を得ていたし、大西氏は三井住友銀行のリテール担当役員としてデジタル技術を駆使した画期的な店舗戦略を猛スピードで実現したことでライバル銀行を唸らせていた。

銀行業界の伝統的な発想からすれば、異端者と言ってもおかしくないような両氏による議論である。描きだしていたのは、パラダイムシフト的なリテール金融モデルの骨格だった。キーワードはフューチャーアカウント(未来の銀行口座)とオールインワンカード。これらを一挙に実現するモバイル総合金融サービスという下絵ができあがっていた。

顧客のあらゆるニーズに応えるデジテル空間の「スタジアム創設」。クレジット、デビット、ポイント払いという複数の決済手段を臨機応変に切り替えできるキャッシュカード一体型のクレジットカードであり、預金口座をセット化したうえに、証券、保険などの金融商品もコンテンツとして搭載して、そのすべてをアブリ上で完結できる。のちに「Olive」というネーミングで打ち出される『フィールド・オブ・ドリームス』のモデルである。