“伝統的な銀行店舗の片鱗すらない”リアルな空間でも会員メリットが
同時に、三井住友銀行の対面店舗戦略面にも布石が打たれている。「Olive LOUNGE」と呼ばれるリアルな空間である。例えば、若者の街、渋谷のど真ん中と言える一角に、Olive LOUNGEという大きな文字が外壁に飾られたビルがある。内部は三井住友銀行とスターバックスが融合した商業空間だが、従来の発想でいる限り、この空間に「銀行店舗」の部分を見出すことは容易ではない。
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果たして、どこに銀行の店舗はあるのか――。意識して見回すと、最も奥まったあたりに、それはあった。ただし、伝統的な銀行店舗の片鱗すらない。名称も「Olive LOUNGE渋谷店」であり、そのトップである古屋久美さんの肩書は支店長ではない。「ストア長」である。ローカウンター的なデスクと、受付っぽいハイカウンター。そして、緑色の服を着たアバターがこちらを見つめる大型の液晶画面。画面には「いらっしゃいませ! 本日は、どのようなご用件でしょうか」という言葉の下に、口座開設、Olive、Vポイント、振込等々、来訪要件別のタッチが設置されている。10時からの有人対応では、女性職員たちがフレンドリーに顧客に接する。
1階フロアは企業カラーである緑色を基調にして、さまざまなデザインのテーブル、椅子が配置され、奥の一面はスターバックスのカウンターがある。そこでOliveで決済すると、10%のVポイントが還元となる。地下1階は静かなワークプレイスであり、Oliveのカード、またはアプリのOliveアカウント画面を提示すれば、スタバで購入した飲食物を持ち込んだりして利用できる。空港ビルに設置されているラウンジを航空会社のマイレージカードで利用できるのと同様に、会員メリットの感情をくすぐる仕掛けと言える。
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デジタルモデルはリアルの壁を簡単に突き抜ける。店舗がない地方でもOliveの申し込みが簡単にでき、預金口座も開設できる。今後、首都圏、関西圏などから全国各地へとOliveの会員は一段と広がっていくだろう。デジタル、リアル両面の施策を踏み出しに、2028年3月までの1200万会員達成が見えてくる。
取材・文/金融ジャーナリスト 浪川 攻