サービス機能の厚みに欠かせない、きめ細やかなシステム構築

SMCCはわが国の有力カード会社であり、ネット系企業とも勝負できる力を備えている。2020年になると、そんな同社の実務担当者に「基本構想を具体化せよ」というトップダウンの指示が下された。「Olive」のプロジェクトリーダーとして、開発・商品企画・プロモーションの全般を担ったマーケティング本部本部長補佐 伊藤亮佑氏は当初、雲をつかむような話のようにすら思えたが、大西社長の説明を耳にしてイメージが固まっていったと言う。

三井住友カード マーケティング本部 本部長補佐 Olive /戦略企画担当  伊藤 亮佑氏

 

実務メンバーの議論のなかで「顧客はひとつのカードでいろいろな決済手段を用途に応じて切り替えるという仕組みはできるのではないか」という道が見え始めて、そのシステムをVisa社がともに開発するという話へと発展していった。クレジットカードと預金口座(キャッシュカード)を一体化させるだけでも高度なシステム開発が伴う。しかも、フレキシブルペイ機能を実現できても、証券や保険などのコンテンツが加わってこその総合金融アプリではないのか――。メンバーたちは走りながら考え続ける日々を送った。

そうしたなかで、2022年6月、SMBCグループがSBIホールディングスとの資本業務提携を実現するや、SBI証券が証券の部分を担うことが決まる。また、ポイントを巡っては、Tポイントの運営主体であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の子会社への40%出資によってSMCCのVポイントとTポイントの統合ポイントの搭載の道も拓けた。

サービス機能の厚みは総合金融アプリの体制が整ってきたことを意味したが、その一方では、それを支えるシステム開発にはきめ細かい対応が求められた。フレキシブルペイは世界に先駆けてVisaと共同開発しているうえに、SMBCグループ側でも独自のシステムを構築しなければならず、証券はSBI証券がアプリに合流するための仕組みを作る。

これらの動きを同時並行的に走らせる必要があったが、ときとして、部分的に遅れが生ずると工程管理上、他のすべても立ち止まらざるを得なかった。ちょうど、子どもたちが競い合う大縄跳び競技で、一人が足に縄をひっかけて飛び越えられないと、全員が立ち止まって一からやり直さざるを得ないようなパターンである。

その一方で、プロジェクトはあらかじめ、「実現まで長くて2年であり、サービスインのタイミングは預金口座の新規獲得のヤマ場である3月」というスケジュールが定められていた。つまり、2023年3月のサービスインというゴールである。伊藤氏は当時を振り返って、こう明かす。

「じつは1月末、2カ月後のサービスインの可否判定を行った際、ゴーサインは出なかった。それほど、リリースの間際まで懸命に作業していた」

もちろん、実務レベルからの報告は経営陣に上がったが、トップマネジメントとともに開発現場は突き進んでいった。「できる」という確信を得ていたにちがいない。かくして、2023年2月3日、OliveはSMBCグループによる初のモバイル総合金融アブリとして打ち出され、予定通り、3月1日にサービスインとなった。