<前編のあらすじ>

吉田家は父の健蔵さん、母の綾さん、直人さんと祐樹さんの4人家族。夫婦は長く共働き世帯で投資に関心が高かった。今回、父親の健蔵さんが亡くなった際、遺産は5000万円を超えていた。

生前の健蔵さんはがんを患っており、ある程度の死期を想定していたことから、早くに終活を進めていた。そのため遺言書も用意してあり、内容としては直人さんに全財産の半分を渡し、残りの半分を妻の綾さんと次男の祐樹さんとで等分するよう指示されていた。

しかし、ここで納得いかずに次男の祐樹さんが異を唱えた。

●前編:【「なんで俺だけ少ないんだよ!」父親の遺産5000万円をめぐり、一家を相続争いに発展させた“一波乱”】

直人さんからの相談

連絡を受けた日から4日後、週末にとある喫茶店で直人さんと落ち合う。直人さんとはいわば幼なじみでもう30年近い付き合いになる。この日は2カ月ぶりくらいの会合だ。なんでも奥さんが最近働きだしたとのことで家事と育児を頑張っていたところに件(くだん)の相続問題。おかげでここ2カ月、必要以上に外に出る気にならなかったという。そんな中、どうしても必要ということで重い腰を上げ私に会いに来たようだ。

久しぶりに会ってお互い軽く近況を話し、雑談もそこそこに本題に入る。

「結局のところ、遺言書の印鑑ってどうなんだ? 結論から教えてくれないか?」

どうやら彼は疲れており、難しい話は極力聞きたくないようだ。私は彼の要望に応え一言で結論を伝える。

「認印が押されてても有効だよ」

直人さんは「あー……」と一瞬曇った顔をするも「もうちょっと詳しく!」と私に頼み込む。先とは変わって晴れやかな表情。

おそらく彼は自分の想定していた考えが正しいと証明されてすっきりしたのだろう。現金な彼に対して私は順を追って話をしていく。