人民元決済が拡大

実際、中国政府は相次ぎ二国間協定の締結に動き、ブラジルとは2023年に入ってから対中貿易で人民元決済を始めた。2022年には、鉄鉱石、大豆、原油などブラジルの中国向け輸出が897億ドル、中国からの輸入は607億ドルで、対中輸出入がほぼ見合っており、最大の相手国でもあることから人民元決済も導入しやすく、実効性がありそうだ。

一方、アルゼンチンは2023年4月、中国からの輸入品の決済を米ドルから人民元に切り替えると発表しているが、アルゼンチンでの政権交代でいったん宙に浮くことになった。

また、ロシアがヨーロッパから原油や天然ガスの輸出仕向け先を振り替える際には、輸入国が主導権をとり、人民元建て、ルピー建てが増えた。つまり、西側諸国の輸出規制を受けるロシアが中国製品への依存度を高めるという、ロシアの対中国従属化で「脱ドル化」が進んでいる。

一方、対インドでは2022年2月まで日量5万バレル程度だったインドのロシア原油輸入が、最近は日量200万バレル前後まで急増し、それがルピー建てで決済され続けているが、インドには中国のようにロシアへ輸出できるものがない。ルピーがロシアに積み上がっているという状況だ。いずれ、先輩格のイランが対中国で差額決済に持っていったような工夫とともに、その尻をハードカレンシー決済にするといった措置に持っていかざるを得ないだろう。

通貨覇権の興亡

 

著者名 髙橋 琢磨

発行 日本実業出版社

価格 2,420円(税込)