2025年は、アメリカ・ファーストの政策を掲げるトランプ大統領の返り咲きによって、世界経済の先行きは不透明感が強まりそうです。野村総合研究所、中央大学大学院教授などを経て評論活動に専念している髙橋琢磨氏は新著『通貨覇権の興亡』のなかで、米中の対立を軸に米ドル1強の世界がどう変わるのかをつぶさに分析しています。今回は本書から南米でも強まる脱ドルの動きを紹介します。(全2回の2回目)

●第1回:BRICSは「ドルによる覇権」に異を唱えるが…新たな共通通貨はまだまだ先といえる“これだけの理由”

※本稿は、髙橋琢磨著『通貨覇権の興亡』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

FRBが政策転換に振り回される新興国

ダラリゼーション(自国通貨に代わってドルが大々的に流通すること)が起きていればもちろん、たとえダラリゼーションが起きていなくても、ドル建てで借金を重ね、ドル建てで貿易決済をしている現状に国際投資の動きが絡めば、FRBが政策転換を図るたびに新興国が振り回されるという問題が起こっていた。

たとえば、FRBが利上げする局面では新興国からアメリカ本国への資金引上げが起こり、新興国は通貨安を伴ったインフレに直面し、新興国の中央銀行は「望まぬ利上げ」を強いられることになる。これはアメリカが新興国に「国内経済の低迷も甘受せよ」と言っているに等しい。

こうした現状を踏まえ、E7(中国、インド、ロシア、ブラジル、インドネシア、メキシコ、トルコ)が2030年にはG7を凌駕する近い将来を展望すれば、「いつまでもアメリカがドル覇権の特権を振り回すのはけしからん」という心境が芽生えても不思議ではない。