新興国投資特有のリスク
新興国市場は高い経済成長率が期待される一方で、株式市場への投資には以下のリスクが存在する。
・グローバル市場との相関性:新興国市場は市場の混乱時に先進国市場と高い相関性を示す傾向があり、期待される分散効果が限定的である可能性がある
・政治的不安定性と規制リスク:政治情勢の不安定さや規制の不透明さが投資リスクを増大させる
・通貨リスク:新興国通貨の変動は時に先進国通貨以上に激しいものとなる
・市場の未成熟性:流動性の低さや企業ガバナンスの問題が存在する
これらのリスクを考慮すると、MSCI ACWIを通じて新興国市場に直接投資することが、リスクとリターンのバランスにおいて最適かどうかは議論の余地がある。実際、世界の機関投資家はMSCI ACWIの配分ほどには新興国市場に投資していないと言われている。
本当に理解しているか? 新興国投資の実態
現在の二択の議論は、一部のインフルエンサーの影響力や情報の偏りによって形成されている可能性がある。多くの投資家は新興国市場への投資のリスクや市場の特性を十分に理解せずに、MSCI ACWIを選択しているのではないだろうか。
他の選択肢と戦略
投資家は必ずしもMSCI ACWIとS&P 500の二択に縛られる必要はない。以下のような代替案も検討できる。
・MSCI World指数を使ったインデックス投資
ACWIと同じMSCIの指数でも、日本を含む先進国23カ国の株式で構成され、新興国市場を含まない「MSCI World」という指数があり、年金基金などの機関投資家にはACWIよりも広く使われている。この指数が現在ほとんど議題に上がらないのは疑問だ。
多くの先進国企業は新興国市場で積極的に事業を展開しており、先進国市場への投資を通じて新興国市場の成長の果実は間接的に取り込まれることになる。
・グローバル市場を対象にしたアクティブ運用ファンド
専門的な運用者によるリスク管理とリターン追求を期待できる。特に、新興国市場のリスクを慎重に評価しながら投資機会を探すことが可能である。
・地域別・セクター別ファンドを組み合わせる
リスク許容度に合わせて、特定の地域やセクターに焦点を当てて組み合わせる。例えば、グローバル指数ではどうしても米国への比重に偏るが、米国への比重を減らす選択肢もある。
・債券やオルタナティブ投資
株式以外の資産クラスを組み入れることで、分散効果がはたらき、株式市場下落時にもポートフォリオの安定性を高めることができる。
自身による投資判断の重要性
長期的な資産形成には多様な選択肢があり、限られた意見やトレンドに流されるのではなく、投資家は自身のリスク許容度、投資目的、投資期間を慎重に考慮した上で、最適な投資先を選択すべきであろう。
本稿が、MSCI ACWIを通じてどの程度のリスクを取っているのか、米国への比重や新興国市場への投資に自身が納得しているのかを、改めて考えてみるきっかけとなれば幸いである。