夫に相談するも…
「ねえ、お義母(かあ)さんにまた粉ミルクのことを言われたんだけど……」
仕事から帰宅した夫の真也に、愚痴をこぼす。夕食の煮物をつまみながら、真也は困ったような顔をする。
「母さんも、しつこいよな。別に陸人の体調には何の問題もないんだろ?」
「うん、ちゃんと4カ月検診も受けたけど、お医者さんは順調に育ってるって言ってくれてたのよ」
「そのことは母さんに言ったのか?」
萌は頰づえをついて、ため息をつく。
「当たり前じゃない。元気に育ってるのがお義母(かあ)さんには見えてないのかしら? 母乳にこだわりたい気持ちは分からないでもないけど、今と昔じゃ粉ミルクの質だって全然違うのにね」
「ホントだよなぁ」
まるでひとごとのような真也の相づちに萌はいら立ちを覚えた。
「ねえ、真也からもお義母(かあ)さんに言ってよ。手伝ってくれてることに感謝してるけど、ミルクのことは私たちに任せてくださいって」
「あ、ああ。もちろん。言うよ。今以上にキツい言い方をするようになったら、俺からもちゃんと注意するからさ」
しかし、真也は暁子に対して、何も注意してくれることはなく、暁子の母乳へのこだわりは日に日に厳しくなっていった。粉ミルクが子供に与える悪影響など、真偽不明の偏った情報を調べてきてはプリントアウトした紙の束を押し付けてくる。萌はそのたびに自分の体質のことを話し、何度も同じ説明を繰り返したが、効果はなかった。もちろん暁子だってただ嫌みを言っているわけではないことは分かっている。陸人を思っての発言だと理解できるからこそ、強く否定することも難しかった。
そんな日々が続いていたある日、萌は自身の体に異変が起こっていることに気付いた。
風呂上りに髪をといたブラシに、常軌を逸した量の髪がからまった。思わず鏡を見ると、おでこの少し上のあたりに親指の爪程度の地肌が見えていた。
●ストレスで髪が抜けてしまった萌。義母を納得させることはできるのか……? 後編【「母親として情けない」義母の“母乳信仰”で円形脱毛症に…理不尽な義母を黙らせた「意外な人物」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。