昼下がり。洗濯機が脱水を終えた音を鳴らした瞬間に、リビングの陸人が泣き出した。ついさっき、ようやく寝かしつけたのに。萌は思わず出そうになったため息をのみ込んでリビングに向かった。

「陸人~、どうしたのぉ」

萌は陸人をベッドから抱き上げ、優しい言葉をかける。ミルクはさっきあげたばかりだし、においを嗅いでみる感じはオムツでもない。泣いている理由が分からなかったが萌は困惑することもできず、陸人をあやし続ける。生まれてまだ4カ月の陸人は当然手の掛かる存在だ。だが、同時に愛くるしい存在でもある。

萌と夫の真也は長い間、不妊で悩んでいた。長い不妊治療の末、結婚してから6年目、32歳のときにようやく第1子を迎えることができた。もちろん初めての子どもなので何もかもが手探りだ。ネットで情報を集め、同じように子育てをするママたちのおすすめに倣いながら子育てに励んでいる。懸命にあやしたかいがあって、再び眠りに就いた陸人を慎重にベッドへ寝かせ、中断していた家事を再開する。

ここ最近、子供を持つ親の大変さを身にしみて感じるばかりだ。友達の子育ての愚痴を聞いていたときは、そんなことで悩めるのがうらやましいと思った。自分ならもっと効率的にできるとすら思っていた。だが実際にやってみると、何一つ思った通りにはいかないし、子供がかわいいと言うだけでは耐えられない状況があるのも分かる。だからこそ、義母の暁子が手伝いに来てくれることを、萌はとてもありがたく思っている。

「いつもすいません。陸人はついさっき寝たところで」

玄関で靴を脱ぐ暁子から荷物を受け取る。紙袋のなかにはいくつもの食品保存容器が入っていた。

「わ、これ煮物ですか? ありがとうございます」

「いいのいいの。作りすぎちゃったから、それに育児で忙しいと料理なんて手を抜きがちなんだから、たまにはこういうものもしっかりと食べないと。洗濯ものの途中だったのね。あとは任せて、萌さんはちょっと休んでなさい」

暁子は家に上がるや早速洗面所へと向かい、洗濯機から洗濯かごへと洗った洋服を詰め替えていく。暁子の家事は手際がよく、本当に助かる。萌は暁子の言葉に甘えてソファに腰を下ろした。思えば朝からほとんど座っていなかった。ふくらはぎをもみほぐしながら、SNSを眺める。フィードに出てきたインフルエンサーは陸人と同じくらいの赤ん坊を連れて、友人たちとおしゃれなカフェでランチをした写真を上げていた。動きづらそうなタイトワンピースに、上品なメイクにネイル。赤ん坊だってブランドもののロンパースを着ている。一方、萌はと言えば、化粧もせず、動きやすさ重視のスエットに襟のよれたTシャツ姿。美容院にもネイルサロンも、もう半年以上行けていない。