壮大な夢を語られ、追加で2000万円送金してしまう
やがて、RURUさんは父に帰国時期が近づいてきたと伝え、「帰国したら真っ先に窪田さんの所に飛んでいきます♥」というメッセージを送ってきました。そして、「帰国後は今の医師仲間と医療設備の整ったクリニックを開設したい。そして、日本で十分な医療を受けられない外国人の子供たちを診療する道筋をつけたい」という壮大な夢を語ったのです。
施設の賃料や医療器具の購入費、看護師・検査技師などの人件費で当面億単位の資金が必要になり、出資してくれる人を探している。自分は医師だけれど儲けにはならない仕事ばかりしてきたので全財産をはたいても2000万円がやっと。これまで何度も支援してもらいながら厚かましいお願いとは重々承知しているけれど、窪田さんからも出資していただけたらとてもありがたい。
第三者の私から見れば、よくもいけしゃあしゃあとそんな嘘八百が並べられたものだと思いますが、当事者の父にとってはそうでなかったのです。
父はRURUさんのほら話を信じて、何と2000万円も送金していたのです。
これが銀行経由の送金だったら、どこかでチェックが入って阻止できたのかもしれません。RURUさんは最初から送金には暗号資産を使うよう指示してきたといいますから、実に計画的かつ巧妙な手口です。
そうして父は、先に寄付していた分と合わせて3000万円近い大金をまんまと奪われてしまったのです。
およそかつてのビジネスエリートらしからぬ、何とも間抜けな顛末です。
しかも、父はRURUさんのことを信じ切っており、警察が摘発した国際ロマンス詐欺グループのアカウントや口座から父にたどり着くまで、全く無自覚だったというのだからあきれます。これでは、兄に「色ボケ爺」とののしられても仕方ないでしょう。
国際ロマンス詐欺グループは複数の日本人と外国人から構成されていたらしく、一部は海外で身柄を拘束されたものの下っ端ばかり、振り込まれたお金の行方は不明です。警察からは、取り返すのは難しいだろうと言われました。“RURUさん役”を務めたのがどんな人かも分かっていません。
父はRURUさんへの淡い恋心を認めつつも、自分の身に起こったことが信じられないようです。兄や私だけでなく、親戚や友人、知人に合わせる顔がないと自宅マンションに引きこもっています。
直接尋ねたことはありませんが、父の場合、月額40万円近い年金を受け取っていて、金融資産だけで億は下らないはずですから、今回のことは相当な痛手ではあるものの、尾羽打ち枯らして自宅を売却しなければならないような事態にはならずに済みそうです。
しかし、精神的なショックはあまりにも大きく、間もなく72歳になる父がこの試練から立ち直れるのか心配です。
とはいえ、私自身はここ数年忙しさにかまけて面倒を見られなかった贖罪(しょくざい)の気持ちもあり、今は傷心の父を支えていきたいと思っています。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。