建設や物流、飲食といった業界では、人手不足が深刻化しています。日本料理店主の片桐広次さん(仮名)の店も例外ではありません。

この10月からは最低賃金が引き上げられますが、配膳担当のアルバイトの主婦や学生は家族の扶養になっていて年収を抑えているため、賃金がアップした分労働時間を減らす必要が出てきます。不足分はまた新たな労働力を確保しなければなりません。片桐さんの店では、それに加えてアルバイトの中心的存在だった大学生が海外留学のため退職してしまう不運もありました。

しかし、ここに来て片桐さんが店を閉める決意をしたのは別の理由からです。15年前の開店からリーマンショックや東日本大震災、そしてコロナ禍という逆風を乗り越えてきた片桐さんに引導を渡したのは果たして何だったのでしょうか?

〈片桐広次さんプロフィール〉

東京都在住
48歳
男性
飲食店経営
同じ店で働く妻と2人暮らし
金融資産1800万円

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私はホテルの和食店で修業した後、独立して都内に自分の店を開いて15年になります。仕入れや調理は私と開店時にスカウトしたベテランの板長とで行い、接客と酒類の扱いは唎酒師(ききさけし)とワインアドバイザーの資格を持つ妻に任せて、配膳要員としてアルバイトを10数人雇っています。

長期にわたり休業や時短営業を余儀なくされた悪夢のようなコロナ禍が明け、ようやく客足が戻ってきたと思ったら、今度はインフレによる光熱費や材料費の高騰です。お客さんには申し訳ないと思いつつ、値上げやメニューの変更で何とかしのいできました。