公園で会うおじさんの正体
ある日、家族で夕飯を囲んでいると、ふと息子の佑が箸を止めて口を開いた。
「ママあのさ、最近、よく公園で会うおじさんいるでしょ?」
「おじさん? あー、ずっとベンチに座ってるっていう男の人? その人がどうかしたの?」
佳織は斜め上を見上げて、佑との会話の記憶をたどった。そう言えば、少し前に佑はいつも同じ公園の同じ場所にいる「おじさん」の話をしていた。
「おじさん」は、佑たち小学生が学校から帰って遊びにいく時間にはすでに公園に来ていて、夕方子供たちが帰る時間になっても、まだベンチに腰かけたままだという。公園に住んでいるのではないかと子供たちの間でうわさされていた「おじさん」を、佳織は最初、不審者ではないかと思って警戒したが、自分から子供たちに近づいたり、話しかけてきたりしないと佑が言うので、すっかり頭から抜けてしまっていた。
「あの人、鷲尾くんのお父さんなんだって」
「え? 英里菜さんの旦那さんってこと? 」
佑の発言に、佳織は思わず低い声が出た。
「佑、その話、誰から聞いたの?」
佳織が前のめりになって尋ねると、佑は中断していた夕食のおかずに箸を伸ばしながら言った。
「うーんと、友達から聞いた。この間、鷲尾くんが公園でおじさんに話しかけてて、『お父さん』って呼んでたんだって」
「そうなんだ……」
息子の話が正しければ、英里菜は佳織たちにうそをついていることになる。佳織はお茶会終わりのうわさ話を思い出し、その日の夜、英里菜が入ってないママ友のSNSグループに息子の話を投下した。話はすぐに盛り上がり、同じように見たことがあるという声も次々に上がった。
『来週のお茶会で問い詰めてみようよ(笑)』
誰かが言ったひと言が悪意に満ちていたのは明白だったが、散々おもちゃのようにいじられてきたのだからと、佳織はみんなと同じようにサムズアップのマークを押した。
●英里菜の夫は毎日公園で時間をつぶしている? 果たして真相は……。後編【「私たち、財布代わりにされてたの?」タワマンの闇…お茶会費1万円を生活費に充てたボスママの「うそで塗り固めた生活」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。