会費1万円への疑念

「ごきげんよう、また来週よろしくね」

お茶会が終わると、にこやかな笑みを浮かべた英里菜が、ママ友たちを玄関まで見送った。ようやく愛想笑いを解除できた佳織は、重い気持ちのままマンションの共有エリアへと向かった。すると、そこにはすでに何人かのママ友たちが集まっていた。英里菜とその取り巻きがいないことを確認すると、彼女たちは一気に表情を緩め、声を潜めて話し始めた。

「ねぇ、今日もまたあの話してたわよね。『うちの主人、管理職だから忙しくって〜』とか。もう聞き飽きたわ」

1人がそう言うと、他のママ友たちも苦笑を浮かべてうなずいた。

「ほんと、それ! あと、あの高級ブランドのジュエリーね! いったい何個目よ? 毎回違うのつけてるけど、どこにそんなお金があるのか不思議で仕方ないわ」

「でしょ? 料理もさ、正直あれで1万円ってどうかと思うのよ。まあ、おいしいのは認めるけど、レストランで食べるほうがずっと満足感あるわ」

声を抑えているつもりでも、ママ友たちの話はどんどんヒートアップしていった。佳織もまた、英里菜のお茶会に対する不満が少しずつ募っていたことで、無意識に口を開いていた。

「私も思った。あの料理にかかってるコストって絶対おかしいよね。なんだか、会費を自分のために使ってるんじゃないかって疑っちゃいそう……」

その一言で、場の空気は一気に変わった。ママ友たちは佳織の言葉を待っていたかのように、一斉にうなずき、声を上げる。

「そうよ! 私もそれ思ってたのよ! あんなにお金かけてるふりして、実際は私たちを利用してるんじゃないかって……」

「ねぇ、実際のところ、英里菜さんの旦那さんって、本当にあの会社で部長なの? 最近、全然姿を見かけないって聞いたけど……」

別のママ友が疑念を口にすると、みんなが一瞬静かになった。英里菜の夫は誰でも知っているような総合商社の管理職だという。以前は朝、子どもの送り迎えをするときなどにエントランスで見かけることがあったが、最近ではほとんど姿を見かけなくなっていた。

ママ友たちはそのあとも「実は別居しているんじゃないか」「旦那さんがよそで浮気して帰って来ないんじゃないか」と好き勝手にうわさ話に花を咲かせた。まるで苦く気だるいお茶会の口直しとでも言わんばかりに小1時間ほどおしゃべりした後、誰かが「そろそろ夕飯の支度をしないと」と言い出したのをきっかけに、その場はお開きになった。