株式分割を特にメリットと感じない企業もある!?

では、値がさ株の代表ともいうべきキーエンスやSMCは、なぜ株式分割に積極的ではないのでしょうか。

まず株主構成を見ると、個人の株主を増やさなくても良いという現状があります。

たとえばSMCの株主構成を見ると、個人株主は2.2%で、最も多いのが外国人投資家の53.8%、信託銀行の25.6%、事業法人等の7.6%となっています。ちなみに信託銀行の保有分は、年金や投資信託など信託口を用いて投資している機関投資家の保有分と考えられます。

キーエンスも同じです。同社の株主構成は外国人投資家が最も多く48.9%を占め、信託銀行などの金融機関が24.7%、その他の法人が20%であり、個人の保有比率は5.6%に過ぎません。

これは東洋経済オンライン(2023年6月22日 遠山綾乃記者)に掲載された記事ですが、2023年6月14日に開催されたキーエンスの定時株主総会で、個人株主が株式分割をしないのかと経営陣に問いただしたところ、「『投資単位の引き下げを求める声は認識している』とした一方で、『株価水準は高い方がいいという意見を持つ株主がいることも同時に認識している』と発言。総合的に勘案して検討するとの回答にとどめた」ということでした。

またこれはさまつな話ですが、コストの問題もありそうです。

1単元を1株にすれば、確かに株主数が増え、株式市場における流動性が高まる可能性はあるものの、企業からすればその株主一人ひとりに対して株主総会の招集通知や、議決権行使時の参考書類ならびに議決権行使書面、計算書類、事業報告、配当金の通知書などを郵送しなければなりません。

最近は電子交付も一部認められていますが、郵送される書類は多く、その郵送費はかなりのコスト負担になります。

あるいは、ややうがった見方になりますが、「会社の内容を理解しようもともせず、値上がり益だけを狙って投資してくるような人には株主になってもらわなくていい」という考えも、ひょっとしたら、あるのかも知れません。1株から投資できるようになれば、大勢の小口投資家が、投機を目的にした売買を繰り返す余地が生まれ、株価が乱高下する恐れがあります。それを避けたいと考える経営者は、少なくありません。

1株単位で売買できるようすることも視野に入れた、東証の取引ルール見直しは、10月から機関投資家、証券代行機関などで構成された勉強会で、その課題などが議論され、来年3月をめどに策定される予定です。それに向けてSMCやキーエンスがどのような対応を取るのか、注目されます。