「個人投資家が投資しやすい環境づくり」を目指す、東証からの働きかけも

また、ここ数年来、株式分割が増えているもうひとつの背景として、東京証券取引所が上場企業に対して、最低投資金額の引き下げを要請していることが挙げられます。

実は2001年に東証は、上場規則の努力義務として最低投資金額を50万円未満にするよう通知をしました。当時はまだ1単元を1000株とする企業が大半でしたが、2018年10月1日から100株に統一されて、現在に至っています。

これによってある程度、単元株取引がしやすくなりましたが、それでもまだ1株の株価が1万円を超える値がさ株は存在していました。そこで東京証券取引所が直々に、株式分割によって最低投資金額を引き下げるように要請したのです。

たとえば2022年10月には、当時、単元株取引だと最低投資金額が800万円を超えるファーストリテイリングをはじめとする194社に対し、最低投資金額を50万円以下にするよう要請しました。2023年に株式分割を行う企業数が151社に増えたのは、そういう事情があったからです。

さらに東証は2024年7月に、1単元を100株から1株に引き下げることも視野に入れて、取引ルールの変更を検討することを発表しました。

これは2022年に東証が株価の高い上場企業に対して行った要請にも関わらず、最低投資金額が極めて高い企業が存在しているからです。

9月24日の終値をベースにすると、1単元の投資に必要な金額が大きな企業は、次のようになります。高い順に並べると、

1位 キーエンス(6861)・・・・・・691万7000円
2位 SMC(6273)・・・・・・610万4000円
3位 ファーストリテイリング(9983)・・・・・・479万3000円
4位 MARUWA(5344)・・・・・・399万5000円
5位 ディスコ(6146)・・・・・・356万6000円
6位 光通信(9435)・・・・・・324万2000円
7位 シマノ(7309)・・・・・・267万4500円
8位 オービック(4684)・・・・・・254万4500円
9位 レーザーテック(6920)・・・・・・241万500円
10位 東京エレクトロン(8035)・・・・・・240万2000円

1銘柄に投資するのに、キーエンスのように691万7000円も必要だと、個人投資家には手が出せません。

ちなみに1単元が50万円を超える銘柄数は168銘柄ありますが、このうち100万円を超える銘柄数は28銘柄ありました。

もし、東証の取引ルール変更が実現すると、最も株価の高いキーエンスでも、7万円弱で投資できるようになります。

このように東証が最低投資金額の引き下げに躍起になっているのは、現政府が重要政策のひとつに掲げている「貯蓄から投資へ」、「資産所得倍増プラン」に歩調を合わせる狙いがあるからと考えられます。