無縁仏として埋葬され、遺骨は取り出せない

例として、2024年3月、朝日新聞デジタルでは「身寄りなき最期と向きあう」というテーマで複数のケースを取り上げました。たとえばボランティアで街路樹の剪定中に脳梗塞を発症し、高所から転落、右半身不随となった70代の独居男性の場合、男性には複数の兄弟がいたものの、支援を頼める人はいなかったといいます。

1200万円の預金を持っていたにもかかわらず、意思疎通ができないため市や病院がそのお金を使うことは難しく、結局、市の判断で生活保護を適用して医療費などを支払ったそうです。

同じ連載で私が取材に応じた記事では、80代の独居男性が買い物帰りに倒れ、心肺停止状態で発見されたケースが紹介されました。男性は病院に搬送後、意識が戻らず、数日後に亡くなりました。

婚姻歴はなく子どももおらず、いとこは関わりを拒否。海外に住む姪とは連絡がついたものの、火葬や納骨は市に一任されました。火葬の際には親族や知人の姿はなく、遺骨は一時的に市の職員が預かり、数カ月後に一時帰国した姪が同意書に署名した後、やっと納骨にこぎつけたそうです。

また2024年4月、NHKでは、元大学教授でひとり暮らしの高齢男性が自宅で倒れて亡くなった際、親族に連絡が取れなかったため自治体が火葬したのちに、無縁仏として埋葬し、数カ月後に車で10分ほどの近隣に住む弟夫婦がそのことを知った際には、遺骨を取り出すことさえできなくなっていたというケースも報道されました。

2024年6月10日放送のNHK「クローズアップ現代」によると、その高齢男性が亡くなる5日前にも、弟は会っていたとのことで、弟夫婦は自分たちへの連絡なしに火葬し埋葬した経緯について、京都市に説明を求めました。

京都市では葬儀を行う人がすぐにわからない場合、戸籍を調べて親族を探すようにしているとのことです。火葬をする前にその高齢男性の戸籍を調べたそうですが、載っていたのは亡くなった両親だけで、弟は結婚して別の戸籍となっていたため、名前はありませんでした。

弟の存在は古い戸籍には記載がありましたが、調査には時間がかかることもあり、京都市はそこまで行っていませんでした。実際、身寄りのない人が亡くなった場合の取り扱いについて、国の統一ルールがないため、判断は各自治体に任されており、対応がバラバラになっているのです。

高齢夫婦2人暮らしというケースも含め、日常的な他者との関わりが少ない高齢者の周りには、さまざまなリスクが潜んでいます。自分は大丈夫だろうと思っている人のなかにも、「老後ひとり難民」化するケースがたくさんあるはずです。

●第2回は【“身寄りのない人”の火葬や合祀は「自治体によって異なる」実態…遺体が3年超保管されたケースも】です(9月4日に配信予定)。

老後ひとり難民

 

著書 沢村香苗

出版社 幻冬舎

定価 990円(税込)