現在、亡くなった人の15人に1人が身寄りがなく、行政機関に火葬されるといわれています。

核家族化やライフスタイルの多様化の影響もあり、家族で支え合うのが難しい時代です。たとえ、結婚し、子どもがいたとしても、一方と死別したり、子どもと疎遠であれば、いつ誰にも頼れない状況に置かれるかはわかりません。ひとりで老後を迎えると、住居の確保、介護や入院の手続き、お墓、そして遺産はどうなるのでしょうか? 

「ひとり老後」を巡る課題やトラブルは日に日に関心が高まっています。そんななか、長年、この問題を研究してきた日本総合研究所シニアスペシャリストの沢村香苗氏の新刊『老後ひとり難民』が話題となっています。今回は特別に本書より、ひとり老後に陥ってしまうリスク、病院や自治体などの現場が直面する課題などをお届けします。(全4回の1回目)

※本稿は、沢村香苗著『老後ひとり難民』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。

普通に暮らす高齢者がある日、突然「老後ひとり難民」になる

高齢者を支える公的制度の中心である介護保険は、すべての人におとずれる「心身の機能の衰え」に対応するための大きな役割を果たしています。しかし、「介護保険があれば安心」というわけでもありません。

多くの人が自分事として心配しているのは、おそらく「認知症になったらどうしよう」ということではないでしょうか。また、イメージしやすい老後の問題として、「老後資金が枯渇したらどうしよう」という心配もありそうです。

では、認知症のリスクが低く、お金の心配もないという人であれば、安心といえるでしょうか。

ひとり暮らしであっても自立した生活ができており、「現時点ではお金には困っていない」という高齢者の方もいると思いますが、実はそのような人の生活にもさまざまなリスクが隠れています。

自分が「老後ひとり難民」になっていることに気づかされるのは、転んでケガをして動けなくなったり、病気で急に倒れたりして、病院に運ばれたときです。入院する際、身元保証人になってくれる人がいないと、受け入れてもらえる病院が見つかるまで、たらい回しにされるケースもあります。

入院できたとして、家にある入れ歯や着慣れたパジャマを持ってきてくれる人はいるでしょうか。コンビニで払っている携帯電話料金は、誰が払いに行くのでしょうか。

「甘いものが食べたい」と思ったとき、買ってきてくれる人はいるでしょうか。治療費や入院費の支払いはどうすればいいでしょうか。親族のなかにそれらの対応をしてくれる人がいそうだと思っていても、倒れたときに意識を失うなどして意思表示できる状態になかったら、親族には誰がどのように連絡してくれるのでしょうか。

昔であれば、病院などが電話帳を調べて連絡できるケースも少なからずありましたが、近年では携帯電話の普及によって家に固定電話を置く人が減り、電話帳では調べられないケースが大半です。

本人の意識がない場合、「半年や1年に一度くらいは連絡を取り合う」という程度のつき合いの親族がいたとしても、スムーズに連絡がつかない可能性は高いはずです。無事に退院できることになったとして、今までのように身体の自由がきかなくなっていたら、その後の生活はどうなるのでしょうか。

階段や段差が多い家に住んでいたりすれば、転居を考える必要が生じるかもしれません。また残念ながら、入院しても亡くなってしまう場合もあるでしょう。そのとき死亡届を出したり火葬の手続きをしたりしてくれる人はいるでしょうか。

仮にいるとして、病院などから、確実に〝その人〞に連絡はつくのでしょうか。住んでいた家や財産は誰がどのように処分することになるのでしょうか。近年、高齢のひとり暮らしの方が、本人が想定していなかったであろう最期を迎えたケースがニュースでよく取り上げられています。