若者は投資とどう向き合うか

<投資に必要なリソースの世代別比較>

筆者作成

若者の投資を考えるときに大切な視座は、若年層には長期投資のための時間というアドバンテージがあることです。一方で元手となるお金や金融リテラシーなどの知識がない、ここをいかに補っていくかが投資・資産形成を推し進めていくうえで極めて重要です。

その点、旧来のNISA制度は長期投資を促しておきながら時限措置であったものが、新NISAでは制度(口座開設期間)の恒久化と非課税保有期間が無期限となったことで時間を味方につけやすくなりました。また、例えば家を購入するなどで商品を売却した場合にも翌年以降非課税投資枠が復活、再利用が可能になり、ライフイベントが盛りだくさんの若者にとっても使いやすくアップデートされました。その他にも前出のように投資に必要なリソースを補う施策や投資する機会が増えることも予想されるなど、プランは若者にとっても恩恵のあるものでしょう。

しかしながら、プランでは投資を促す、一歩を踏み出す施策は用意されているものの、「投資はしたほうが良い」という暗黙の前提のもとに構成され、投資そのものの意義・目的・効果の明確化は不十分だと感じます。

とりわけ、投資の影でみた投資を将来への期待や希望と結びつける必要性を念頭におけば、プランを着実に実現させるには「将来不安による資産形成」を超えた、若者に「今の日本に投資が必要だ」と訴えられる力強いメッセージが欠かせません。持続可能な長期投資を担保できるだけのメッセージこそが、社会全体の「成長と分配の好循環」と若者の「金融資産所得の増加」の両視点からみても、資産所得倍増プランが成功する鍵を握っています。

「なぜ“今”若者が投資するのか」「“今”投資をすることで何を得られるのか」という投資の意義・目的・効果を社会が若者に与えられないのであれば、若者自身で考える必要がありそうです。

早くから投資をすることで将来に備えられる、将来の安心感を手に入れられるというのも当然あります。一方でこれだけで「投資しよう!」と思えるのは少数派ではないでしょうか。

稼いだ大切なお金を消費・貯蓄・投資・浪費などに振り分けていくことを考えたときに、たださえ少ないお給料を若者が投資に回すのはかなりのストレスになり得ます。投資という選択肢を選ぶ(選んでもらう)ためには自身が投資を通じて実現したい目的はなんなのか、投資を通じて得られるものはなんなのかを一歩立ち止まって考えたいところです。「お金!」と即答されそうですが、突き詰めたらお金ではなく、その先にあるお金の使い方に目的があるはずです。

さらに、お金だけならば、損をするという結果はあまりにも受け入れ難い悲しいものとなります。お金以外の投資を通じて得られる新しい付加価値、例えば、世界の見方が広がるなど勉強の要素なども見いだせれば、損益に左右されない揺るがない動機付けとなるでしょう。

満を喫して新NISAが始まり、投資を始めてみたという若者も多いはずです。蓋をあけてみれば、「あそこの高値で売っておけば」というタラレバ、「ここのところの急落で売った」「思ったより増えないからやめた」などの声も耳にします。若者の味方である時間を活用できずにやめてしまうことはもったいないことです。NISAという横文字はカッコいいですが、NISAというシステムにお金を入れれば、自動的に利益を生んでくれる訳ではありません。

そもそもNISAは通常得た利益にかかる約20%を非課税にする制度ですから、利益がでなければ意味がありません。NISAだから投資をするというのは、バーゲンで安いから買い物するという感覚に似ているのではないかと思います。買い物でも大切なのはそのものが必要かどうかであるのならば、投資で必要なのはなぜ投資をするのかという本質的なことを突き詰めることでしょう。

近年、金融業界の取り組みもあってますます投資へのハードルは下がり、手軽に投資ができるようになっています。手軽に始めることは手軽にやめてしまうことの裏返しになりかねません。

そのためにも「NISAでとりあえず」「みんなが投資しているから」という世論・トレンドに惑わされず、一歩立ち止まって考えてみませんか。自身の大切にしている価値観を投資の意義・目的・効果に落とし込み、価格ではなく価値に重きをおければ、持続可能な長期投資ができるのだと思います。自分の納得できる投資を模索することが、おなじみの「投資は自己責任で」の意味することだと考えています。

議論にも参加した私の考える新NISA最大のアップデートは制度の恒久化です。人生100年時代ならば、投資を焦って始めるほど人生は短くないはずです。焦らずマイペースでゆるりと、そんな肩肘張らない楽しい投資が長期投資を実現し、時間を味方につけることで利益も享受できたというのが理想ではないでしょうか。

「貯蓄から投資へ」を初めて掲げたのは小泉政権です。それからはや20年余りを経てようやく若者のリスクマネーが動き出しました。この流れを止めないためには、社会も若者も、投資の意義・目的・効果を考えることから始めなければなりません。それがNISAありきでない持続可能な長期投資に不可欠であると感じています。資産所得倍増プラン策定に微力ながら関わった者としても、本プランが一人でも多くの人のファイナンシャルウェルビーイングに寄与することを切に願います。

執筆/学生投資連合USIC 八田潤一郎