新NISAが始まってから早くも1年がたとうとしている。毎月1兆円を超える資金が株式市場に流れ、1000兆円とも言われる日本の家計の預金資産が動き始めた。

他方、その資金流入先には偏りも生じている。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、通称「オルカン」への資金流入だ。9月までの段階で、1兆8000億円の買い付けが行われ、年内には2兆円を超えるだろう。実際、周囲の学生を見ても、昨今の評判を聞いてかオルカンを最初の1本として選ぶ人が確実に増えてきている。

しかし、現状を鑑みるにオルカンへの過剰期待と2つのリスクの過小評価が行われていると考えている。投資の格言に「相場は常に正しい」という言葉がある。「株価」は多くの投資家の思惑が目に見える形となって現れる指標であるため、その期待度を反映する。逆説的には、正当な評価から逸脱しているという証拠でもある。日本政治は大きく動き、アメリカ政治も今まさに動こうとしている。

今回は、「オルカン」一辺倒の現状に対し、多くの人が見えていないリスクを踏まえながら、持続的な資産形成のあり方を考えていきたいと思う。

為替リスクの存在

オルカンの運用方針に「各マザーファンド受益証券への投資を通じて、主としてMSCI  オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に採用されている日本を含む先進国および新興国の株式等に投資を行い、信託財産の1口当たりの純資産額の変動率を対象インデックスの変動率に一致させることを目的とした運用」と記載されている通り、為替ヘッジなしで海外株式に投資を行うため円換算を行った際に為替の影響を受ける。

「オルカン」のベンチマーク指標である「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」の基準価額が717.38$(2022年始値)→836.87$(2024年11月1日)とわずか16%程度の値上がりに過ぎないのに対し、円安の影響を受ける「オルカン」の基準価額は1万5900円(2022年1月31日)→2万5962円(2024年11月1日)と63%程度の値上がりを示している。

円安の影響を受けたことでベンチマークから大きくかけ離れた水準となっているが、これまでの円安基調から円高基調へと変化する材料がポツポツと出始めていることに注意しなければならない。

単純な話として、1ドル150円の時に100ドル分の米国株を購入した場合、円換算では1万5000円になる。しかし、円高が進み1ドル115円(2022年1月1日と同じ水準)になった場合、同じ米国株は1万1500円と評価され、3500円の損失が発生する。

オルカンの運用資産の大半が外貨建て資産であるため、為替の影響を受けやすい商品と言える。もし、為替が円安の進む前の2022年初頭の水準まで戻れば、新NISA以降で「オルカン」の買い付けを始めた人は一時的な含み損を抱えることに留意しなければならないだろう。