どこまでも自分ファーストな夫

本当のことを言えば、美里だって淳也に負けないくらいお酒が好きだ。

実際、美里が穂香を妊娠する前は、夫婦そろってよく外でお酒を飲んだし、毎年ビアガーデンにも行っていた。今日だって、せっかくビアガーデンに来たのだから、思いっきり楽しみたいという気持ちはあった。

とはいえ、元気いっぱいの2歳児を抱えながら、のんきにお酒なんて飲んでいられない。少しでも目を離すと、穂香はすぐに全力で走りだしたり、イタズラをしたりするのだ。

そのため美里は、お酒を飲むどころか、自分の食事すらままならない。しかし、美里の心中など知る由もない淳也は、頰を赤くしながらビアガーデンを1人楽しんでいた。

しかも悪気なく人の神経を逆なでしてくるのだから始末が悪い。

「あれ? 美里は飲まないの?」

美里は淳也のデリカシーのない発言に心底腹が立ったが、ここは家ではなく出先だ。

(飲まないんじゃなくて、飲めないのよ!)

美里は、淳也に対する怒りの言葉をぐっとのみ込み、穂香の世話を続けるのだった。