トランプ氏銃撃事件、バイデン氏撤退…波乱の続くアメリカ大統領選挙

トランプ大統領候補に対する銃撃事件で、「もしトラがほぼトラになった」という声が、方々から聞こえてきました。いささか不謹慎な見方かもしれませんが、トランプ候補が銃撃された後、自分の無事をアピールするかのように高く右手のこぶしを突き上げた写真は、「何者にも負けない強いアメリカ」を具現するものでした。

この暗殺未遂事件が起こったのは7月13日(日本時間14日)のこと。それから8日を経た同月21日、バイデン大統領は11月に行われる大統領選挙から撤退することを発表し、自分に代わる大統領候補として、カマラ・ハリス副大統領の支持を表明しました。

現時点において、ハリス副大統領の実力は未知数ですが、立候補を表明した7月21日から1週間足らずで、2億ドルもの献金を集め、かつモーニング・コンサルタントの全米世論調査によると、支持率がトランプ候補の47%に対して45%と僅差に迫っています。実際にどうなるのかは11月の選挙を迎えないと分かりませんが、選挙戦の行方を巡って、マーケットも落ち着かない展開が続きそうです。

現時点において、ハリス候補がどのような経済政策を打ち出すのかは未知数です。ハリス候補は、バイデン大統領が選挙戦を撤退することを表明した後、「バイデン大統領の過去3年間の業績は、比類ないものだ。私たちは彼が国に尽くしてくれたことに深く、感謝している」と述べているので、バイデン大統領がこれまで行ってきた政策を、180度変えることにはならないと思われます。

ただ、ハリス候補が過去、経済政策についてどのような発言をしたのかを、第一生命経済研究所がまとめています。それを引用してみましょう。

【税制】
・トランプ減税の代替策として、所得10万ドル以下の世帯に対する最大500ドル/月の税額控除を提案(2018年)。
・21%の法人税率を35%へ引き上げ(2019年)。現状、バイデン大統領は28%への引き上げ、トランプ候補は15%か20%への引き下げを主張。

【通商】
・自身は「保護貿易主義者ではない」と言及(2019年)。
・トランプ候補の掲げる全輸入品への10%一律関税を「生活コストの上昇を招く」と批判(2024年)。

【環境】
・「完全なクリーン経済(100percent clean economy)」の実現を掲げ、2035年までにすべての新車販売をゼロエミッション車とすることや、2045年までにカーボンニュートラルを実現することを提案(2019年)。
・気候変動対策のために今後10年で官民総額10兆ドルの環境投資が必要としたうえで、炭素税導入を提案(2019年)。

こうしたハリス候補の発言内容を見る限りにおいて、バイデン大統領がこれまで行ってきた政策から大きく乖離(かいり)するものは見当たりません。バイデン大統領が任期中に行ってきたのは、国内においては低所得者層や中間層を底上げすることで経済の活性化を目指し、気候変動に配慮し、対日的には日本との関係性を重視する、というものでした。

また、通商政策としては中国製EVの関税を現在の25%から100%に引き上げることや、電気自動車用リチウムイオン電池や半導体などの関税も引き上げることを発表し、中国向け半導体の輸出規制を強化する措置も打ち出してきました。

これらの政策は、ハリス候補が大統領になったとしても、恐らくは踏襲されていくでしょう。