数字主義との決別を表明した第一生命

最近トップにお会いした大企業の中で大きな変化を感じさせられた会社は他にもあります。その1つが、第一生命ホールディングス(銘柄コード8750)です。

2023年4月に常務から抜擢されて第一生命の社長に就任した隅野俊亮さんは、就任時53歳です。金融機関トップとしては非常に若いと言っていいでしょう。またこれまでのトップとの違いは、隅野さんがいわゆる運用畑の人であることです。生命保険会社では人事畑や営業畑の人が出世してトップになることが多く、運用畑の人が社長になるのはめずらしいことです。加えて隅野さんは海外勤務が長く海外M&Aを牽引した経験もあり、グローバルな視野を持った経営にも期待が持てます。

私が隅野さんの覚悟を感じたのは、面談の中で明確に「ターンオーバーと決別する」と言っていたことです。

これは第一生命に限らないことですが、従来、生命保険業界はある面で人を「使い捨て」にしてきたところがありました。大量に営業職員を採用する一方で、その多くが脱落していくことを前提とし、目先の契約獲得に力を注いできたのです。

しかし隅野さんは、人の回転率(ターンオーバー)が高い状態を明確に否定しました。「お客様はもちろん、従業員にも長期にコミットすることが重要であり、しっかり人材を教育して長く働いてもらいたい」。これは当たり前の話だと感じる人も多いと思いますが、長く生命保険業界に蔓延していた「数字主義」と完全に決別するのだという意思を示したことは非常に大きいと感じます。

生保業界で真のダイバーシティは進むのか

実は私は、大手生命保険会社があまり好きではありませんでした。それは、「女性活用」を謳っている一方で女性を使い捨てにするカルチャーがあると感じていたからです。

私は経産省が選ぶダイバーシティ経営企業の選定委員なども務めてきましたが、候補企業の上位に並ぶ企業の中には、女性社員比率が高いことなどを根拠に「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め合い、それを企業活動などに活かそうとする考え方)に努めている」「女性が活躍している」というレポートを提出する生命保険会社もありました。

しかしそのような会社でも、課長クラスは男性が多く、役員ともなればほとんど男性ばかりという状況なのです。その実態は、私には、女性を消耗品扱いしているように感じられました。

長年にわたり業界に根づいてきたそのような在り方を根本的に変えていこうというのは、並大抵のことではないでしょう。もちろん第一生命についても、取り組みの結果が現れるのはまだ先のことになると思いますし、私たちは隅野さんが結果を出していくのかどうかを投資家として見定めなければなりません。

しかし、少なくとも問題意識を明確にし、変化を起こすと宣言し、行動しようとする人に対しては「かけてみたい」と思うのです。

もう少し付け加えると、第一生命は成長戦略について強く打ち出しているところも注目ポイントです。生命保険会社は従来、生命保険商品以外の金融商品の販売にはあまり力を入れていませんでした。しかし第一生命では今後、資産形成に資する商品を強化する方針を打ち出しています。住信SBIネット銀行や楽天銀行などのいわゆる「勝ち組」のネット系金融機関とタイアップする戦略は、うまくはまれば成長を後押しすることになるかもしれません。

何より、隅野さんには業績に対する強いコミットメント、そして「株価を上昇させる」ということに対する強い意欲があります。これは従来型の大企業経営者とは大きく異なるところだと思います。

注2:個別銘柄を推奨するものではありません。またファンドへの組み入れをお約束するものではありません。

●第2回は【日本を変えるかもしれない!? 「ひふみ」最高投資責任者が期待する4つの会社の“実名”】です(8月16日に配信予定)。

「日経平均10万円」時代が来る!

 

著書 藤野英人

出版社 日経BP 日本経済新聞出版

定価 1,650円(税込)