純資産総額が1兆円を超える投資信託「ひふみ」シリーズ。2008年の運用開始以来、数多くの日本の成長企業を発掘し、投資してきました。新NISAが始まり、個人投資家が増えていますが、「投資は悪」と考えている日本人はまだ多いのではないでしょうか。

「ひふみ」最高投資責任者の藤野英人氏は、日本人が投資を敬遠する背景にデフレがあったのではないかと分析します。デフレからインフレに転換しつつあるなか、投資やお金との向き合い方も見直すべきかもしれません。そこで藤野氏が考える「投資の第一歩」を紹介します。(全3回の3回目)

●第2回:日本を変えるかもしれない!? 「ひふみ」最高投資責任者が期待する4つの会社の“実名”

※本稿は、藤野英人著『「日経平均10万円」時代が来る!』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。掲載情報は、書籍執筆時(2023年12月時点)に基づいています。

デフレで「仕事嫌い」「会社嫌い」になった日本人

株式投資をすることは、投資先の企業を支持し、応援することにほかなりません。

ですからそもそも「会社」というものに対する信用がなければ、会社にお金を投じる「株式投資」についても悪いイメージがつきまとうのは無理もないことだと思います。

この点、私は今の日本でマネー回避の傾向が強まって「投資は悪」という考えが深く根づいた背景に、「デフレによる仕事の価値の低下」もあったのではないかと考えています。

およそ30年にわたるデフレ時代、企業は低価格競争を激化させてきました。とにかく安さを売りにすることが当たり前になり、人件費や原価の削減に力を入れてきたのです。

人件費や原価を下げようという努力は、当然ながら、商品やサービスの品質に影響を与えます。結果的に、長引いたデフレは仕事への期待や誇りなど働く魅力そのものを低下させていくことになりました(下記、図表参照)。

 

「ブラック企業」や「ブラック労働」という言葉に象徴されるように、従業員を低賃金でこき使って「安さ」を追求する会社も少なくありませんでしたし、消費者側も、労働者の搾取を背景に低価格で提供されるサービスを当然のものとして受け入れるようになっていきました。

仕事の価値が下がれば、働くことが嫌になったり、会社が嫌いになったりするのは当たり前のことです。実際、「仕事が好きですか?」「今働いている職場が好きですか?」と問われて、「仕事が好き」「会社が好き」と即答できる人はあまり多くないのではないでしょうか。

私は大学で長年にわたり講義を行っているのですが、以前、「働くこと」のイメージを学生に尋ねたところ、およそ8割が「働くことは、ストレスと時間をお金に換えること」だとネガティブに捉えていました。

日本人の「会社嫌い」について記憶に新しいのは、2022年に経済産業省が「未来人材ビジョン」を発表した際、そこで示されたデータがSNSで話題になったことです。

たとえばアメリカの調査会社ギャラップが2021年に実施した調査によると、日本では「従業員エンゲージメントが強い」、つまり「会社とお互いに貢献し合える関係にある」と感じている社員の割合は5%に過ぎず、これは世界の中で見ても最低水準だということが示されています。ちなみに米国/カナダは34%。この数字を比べれば、「日本人がいかに会社に期待していないか」がよくわかるでしょう。

 

また、パーソル総合研究所がアジア・パシフィック地域を対象に2019年に実施した調査からは、「現在の勤務先で継続して働きたい人」の割合は日本では52%に過ぎず、これは調査対象となった14の国・地域の中で最低となっています。

 

ちなみに同じ調査において、「転職意向がある人の割合」「独立・起業志向のある人の割合」も日本は14の国・地域の中でもっとも低く、「会社は嫌いだけれど、転職したり独立したりするつもりもない」という人が多いことがうかがえます。

その上、日本人は自己研鑽の気持ちも低いことがわかっています。パーソル総合研究所が2022年に行った調査で「自分の成長を目的として行っている勤務先以外での学習や自己啓発活動」について尋ねた項目があるのですが、日本人の回答で圧倒的な1位になったのは「とくに何も行っていない(52・6%)」でした。

 

今の日本人は、会社が嫌いで不満を抱いている一方、転職したり独立したりするつもりもなければ自己研鑽もせず、半ばあきらめ気味に日々を過ごしている人が多いのでしょう。