純資産総額が1兆円を超える投資信託「ひふみ」シリーズ。独自の投資哲学と調査で、株価が何倍にも跳ね上がる成長株を数多く発掘し、人気を博してきました。ところが現在、主力商品「ひふみ投信」(注1)の時価総額別比率は、3000億円以上の大型株が約8割を占めます。

どうして大型株の比率が高まっているのでしょうか? 「ひふみ」最高投資責任者の藤野英人氏は「日本の大企業が変わり始めた」といいます。日本経済を引っ張る社長たちとのエピソードを交えながら、なぜ投資判断が変わったのかを藤野氏に語ってもらいます。(全3回の1回目)

注1:直販での商品名は「ひふみ投信」、銀行や証券会社で扱うのは「ひふみプラス」、確定拠出年金専門では「ひふみ年金」。すべて「ひふみ投信マザーファンド」に投資しているため、投資方針、組入銘柄などは同じ。

※本稿は、藤野英人著『「日経平均10万円」時代が来る!』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋・再編集したものです。運用状況や情報などは、書籍執筆時(2023年12月時点)に基づいています。

「眠くて退屈」だった日本の〝大企業〟が変わり始めた

ネットで日本の大企業は「JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)」と揶揄されています。

以前の私は、「日本の大企業の社長に会ってもつまらない」と思っていました。外国人投資家と会話をするとよく「日本の経営者はスリーピング&ボアリング(眠くて退屈)だ」と言われたものですが、何千人もの企業経営者と面談してきた私も同じような感想を抱いていたのです。

私が運用する「ひふみ」に対し、中小型株や成長株の投資に強いというイメージを持っている人は多いと思いますが、「ひふみ」の運用が中小型株・成長株に傾斜していたのは、大企業の中に「投資したい」と思えるような会社がなかったからだとも言えます。

わかりやすく言えば、大企業のトップには「成長するぞ!」「株価を上げるぞ!」という気概を持った人が見当たらなかったのです。

おそらくこれは、大企業において「社長になること」が成功の証であり、それがゴールだったからではないかと思います。社長になった後はいわば「消化試合」で、リスクを取って成功したからといって大きな報酬や評価が得られるわけではありません。社長になってからの会社員生活を「ご褒美のようなもの」ととらえ、「自分が社長を務めている間、会社が傾かないようにさえすればいい」と考える人も多かったのでしょう。

見方を変えれば、これは日本でデフレが続いてきた要因の1つでもあります。株主の権利を無視し、会社に寄生しながら楽園生活を謳歌する「サラリーマン社長」による経営は、更新投資を中心とした保守的なものになることを運命づけられていました。大企業が次なる成長を目指した大胆な設備投資をせず、常に投資不足の状況になった結果、銀行の貸出先がなくなって資金が滞留してしまっていたのです。

大企業のサラリーマン社長と会話すると、彼らはいつも3つの話で盛り上がっていました。1つは、ゴルフ。もう1つは、健康。もう1つは、「どうすれば勲章をもらえるか」です。スリーピング&ボアリングと評されるのも、当然だったと思います。

住友商事のトップに会って気づいた「大企業の変化」

しかし、時代は変化しました。コロナ禍を経て大企業のトップ交代が進む中、一気
に社長が若返るケースも目立つようになっています(下記、図表参照)。

 

「伊藤レポート」後の時代を長く過ごしてきた彼らの中には、より洗練されたグローバルな視線を持ち、株式市場と対話できるタイプの社長も登場しています。

何より私が感じているのは、トップとして経営にフォーカスする覚悟があり、成長志向を持つ人が増えてきたことです。社長になることを人生のゴールとせず、「社長になってからのパフォーマンスで勝負しよう」と考えて真摯に取り組むトップが牽引すれば、その会社が大きく成長する可能性は十分にあります。日本の大企業の中に、長期的な株価上昇が期待できる会社群が発生しつつあるのです。

私が大企業の変化に気づいたきっかけの1つは、2022年末、住友商事(銘柄コード
8053 )社長の兵頭誠之さんと食事をする機会を持ったことでした(注2)。

旧知の方の紹介があって3人でじっくり話すことができたのですが、私が驚いたのは、兵頭さんが1時間半もの間、食事にもほとんど手をつけずに明確な成長戦略をものすごい熱量で話していたことでした。世界の課題であるカーボンニュートラルやSDGsの問題、日本の食糧自給率や経済安全保障の問題など話題は多岐にわたりましたが、ご自身が長く電力インフラ事業に携わっていた経験やインドネシア住友商事社長を務められた経験も背景に「私たち住友商事がどのような役割を果たすべきか」という視点で論理的に話をされる様子は、日本の大企業トップの変化を強く私に印象づけたのです。

ですからその後、バフェット氏が来日して「日本の商社株を買い増す」と言ったとき、私はまったく違和感を覚えませんでした。バフェット氏が商社株に投資した理由は1つではないと思いますが、少なくとも、日本企業の経営者の変化が見えていたことは間違いないと思います。